グーグルと別れても、ゼンリンが案外しぶとい 1000人が足で築いた地図で競合も抜き去る

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ゼンリンが地図のデジタル化を実現したのは1984年だ。カーナビ用にデジタル地図を整備する必要があったが、そうせざるをえない決め手となったのは、細かな文字を書ける職人の数が不足していたこと。住宅地図を全国で整備・更新していくには、職人に頼らない方法を構築することが必要だった。そこで日立製作所と共同で住宅地図自動化システムを確立。1986年にはCD-ROM「Zmap電子地図」を開発して1988年に発売している。1990年代にはカーナビ用地図の売上高も拡大したことで、1994年9月の上場へとつながっていった。

対照的に昭文社はデジタル化の決断が遅れた。既存の出版事業が好調だったがゆえだ。1978年には『ミニミニガイド文庫』で旅行ガイドブックに参入。1984年に立ち上げた主力ブランド『マップル』は地図だけでなく、1989年から始めた『マップル(現まっぷる)マガジン』で雑誌事業にも展開した。2008年には女性向けの『ことりっぷ』も始動、さらに2011年投入の『まっぷる工場見学』はじめ、大ヒットを次々と連発したのである。

デジタル化に踏み切るのは1990年代に入ってからだった。1995年に電子地図ソフトの「マップルライフ」を投入。独自に地図データベースシステム「SiMAP」の運用を開始し、地図アプリや簡易カーナビ用のデータ提供も始めた。一時はこれら電子地図が収益に貢献した。

だが足元では、この電子化された地図が苦戦している。とくにグーグルマップなどの台頭で、有料の地図アプリが低迷。カーナビ用地図も縮小が続き、ガラパゴス化した国内市場を奪い合う状況である。

サブスクで業界ごとに毎月定額をガッチリ

昭文社の場合、デジタル化の出遅れに加え、もともと強みの出版事業でも返本が膨らんで、2017年3月期には営業赤字に転落。2018年3月期には新ガイドが堅調な反面、利幅の大きい地図やカーナビの受注が減った結果、連続営業赤字に陥ってしまった。

家の表札やオフィスビルのテナントを1つ1つ徹底調査するのがゼンリンの強みである(写真:ゼンリン)

冊子版の住宅地図は長期縮小が続いており、スマホ向けの有料地図アプリも低迷。それでもゼンリンの増益がなお続くのは、月額課金によるサブスクリプション型のBtoBビジネスが育っているからでもある。

とりわけサブスクリプション型が進んでいるのが住宅地図データ。各業界ごとに必要な情報をワンストップで提供するパッケージ商品が伸びており、1都道府県1ID単位で月額1万円という料金体系もわかりやすい。

その象徴が不動産業者向けの「GISパッケージ」だ。ゼンリンの住宅地図に地番や用途地域名、容積率、建ぺい率や路線価など地価情報を重ねて表示できる便利さが業者向けに受けている。不動産業者としては従来、地番を法務局に確認しなければいけなかったし、路線価を国税庁のサイトで検索しなければならない。こうした手間を省ける点が喜ばれた。同製品は開始当初の2014年3月期の2億円から、今期に20億円超まで拡大する見込みである。

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