日産・西川社長「久し振りの笑顔」が戻ったわけ ルノーの指定席「日産会長職」を取り戻す

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ただ、日産は現在、ゴーン氏の不正を許した企業統治(ガバナンス)について、専門家による特別委員会に改善策の検討を委ねており、そこでの議論には会長職のあり方も含まれている模様だ。会長が従来務めていた取締役会議長について、社外取締役に担わせることを提言する方向であるとの観測も浮上しており、会長職の行方は依然として流動的だ。

一方、ルノーの筆頭株主であるフランス政府が要求する3社による経営統合問題については、当面は棚上げにしようとする各社の姿勢が明確になった。12日の会見ではアライアンス・ボードが将来的な経営統合に向けたステップではないかといった趣旨の質問が相次いだ。スナール氏は「今日のポイントではない」としながらも、「株式持ち合いや資本構成にはまったく影響がない」とも回答。新組織設立が経営統合に直結するものではないと示唆した。西川氏も「(経営統合の議論は)数カ月後に来ることはない」と述べた。

その理由には、経営統合や資本構成見直しの議論を始めれば、経営の自主性や独立性を重視する日産・三菱自と、フランス政府の意を受けて統合を求めるルノーとの間で対立が再燃しかねないためだ。ゴーン氏逮捕以降の混乱によって、連合内での協業が停滞するなど業務面でも影響が顕在化しており、3社とも関係の修復を進めてまずはグループのシナジー創出を優先させたい考えだ。

今後の意思決定は合議制に

今後は、ゴーン氏に権限が集中して実質的に一人で連合を主導してきた「独裁体制」から決別し、アライアンス・ボードでの合議によって提携戦略の決定をしていく方針だ。連合内に複数あった組織や会議体をアライアンス・ボードに集約して簡略化することで、意思決定を迅速化させることを狙いとしている。ゴーン氏が2014年以降進めてきた研究開発や人事、購買などの各社の機能を統合していく戦略についても、アライアンス・ボード内で問題点を整理し、修正していくとみられる。

ルノーのスナール会長と言葉を交わす西川社長(撮影:大澤誠)

ただ、絶対的な権力をもとに連合の戦略を差配してきたゴーン氏を追放し、「4人(ルノー会長とルノー、日産、三菱各社のCEO)の合意をベースとする」(スナール氏)方法に改めることは、連合の意思決定のスピードが遅くなるリスクもはらんでいる。3社の利害は必ずしも一致するわけではなく、利害が対立した場合にどこまで合理的な決定ができるか。

合議制はゴーン独裁体制の反省を生かそうと考え出されたスキームではあるが、電動化や自動運転などの分野でIT大手も巻き込んだ異次元での競争が本格化する中、意思決定の遅れは連合にとって命取りにもなりかねない。

岸本 桂司 東洋経済 記者

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きしもと けいじ / Keiji Kishimoto

全国紙勤務を経て、2018年1月に東洋経済新報社入社。自動車や百貨店、アパレルなどの業界担当記者を経て、2023年4月から編集局証券部で「会社四季報 業界地図」などの編集担当。趣味はサッカー観戦、フットサル、読書、映画鑑賞。

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