「グーグル翻訳」が急激によくなっている理由 人工知能による予測能力が劇的に改善中

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つまみを回し続けると、AIの予測精度はある時点で閾値(いきち)を超え、アマゾンのビジネスモデルに変化が引き起こされる。予測の精度が十分に高まれば、注文を受けるまで待っているより、顧客が欲しがっていることが予測された時点で商品を送るほうが利益につながる。

注文しなくても製品が送られてくれば、あなたはほかの小売業者を訪問する必要がなくなる。そして手元に届けられた商品に刺激され、もっと買い物をしたい気分になるかもしれない。こうしてアマゾンの顧客内シェアは高くなる。

当然ながら、これはアマゾンにとってすばらしいが、あなたにとってもすばらしい。アマゾンは買い物する前に出荷してくれるのだから、万事がうまくいけば、買い物の手間はすっかり省略される。ダイアルを回して予測の精度を上げれば、アマゾンのビジネスモデルが変化して、「ショッピング・ゼン・シッピング」から「シッピング・ゼン・ショッピング(商品発送後に購入する)」へと移行するのだ。

すでに「予測配送」の特許を取得している

もちろん買い物客は、欲しくもない商品が手元にどっさり届けられ、返品するような面倒に関わりたくない。そうなるとアマゾンは、返品のためのインフラに投資するだろう。配達用のトラックと同じものが何台も準備され、それが顧客のもとを1週間に一度巡回し、不要な商品を回収するシステムが確立されれば便利だ。

では、こちらのほうがいいビジネスモデルだとしたら、なぜアマゾンはこれまで実行に移していないのだろう。実行すれば、返品を回収して処理するコストが顧客内シェアの増加による利益を上回ってしまうからだ。今のままでは、発送した商品の95%が返品されてしまう。送られる側にとってもアマゾンにとっても、これは実に迷惑な話だ。現時点では、アマゾンが新しいモデルを採用できるほど、予測能力は高くないのである。

ただし、新しいやり方が利益につながることがある時点で見込めるようになれば、実際に予測の精度の向上が利益をもたらすようになる以前の段階でも、アマゾンが新しい戦略を採用するシナリオは想像できる。実際、アマゾンは2013年に「予測発送」の特許をアメリカで取得しているのだ。

アマゾンの例からもわかるように、AIとは予測技術にほかならない。「人工知能」といっても、知能そのものが実現するわけではないことを強調しておきたい。

いまでも予測は在庫管理や需要予測など、従来のタスクに使われ続けているが、最近では、まったく新しい問題にも予測が応用されるようになった。物体認識、言語翻訳、創薬など、AIが進歩する以前は、予測がほとんど不可能だった分野が多い。

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