日本で金融の新サービスが生まれにくい事情 フィンテックははたして今後どうなるのか

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北澤:もうひとつ、技術というのは、言ってしまえば世界中の天才たちが自然発生的に生み出していくわけですが、それが社会に実装されていくにあたっては、技術とユーザー、技術と社会の間に、きちんと架け橋を作ってあげることが重要だと僕は思っています。例えば、いま僕がいるCoinbaseは、取引所として、クリプトアセットと法定通貨(フィアットカレンシー)を行ったり来たりできるような安全な橋となることを目指しています。

みんながクリプトアセットとフィアットを行き来し始めることで、ようやく暗号資産は、投資のフェーズからユーティリティのフェーズに行くはずだと考えています。

実際、クリプトアセットにはまだまだ可能性があります。ビットコインからは、ライトニングネットワーク(日常的な細々とした支払いや決済にビットコインを使用できるプロトコル)のような発想が生まれ、イーサリアムの登場によってスマートコントラクトの可能性が膨らみ、今度はERC20(ICOで使用されるトークンの統一規格)で……といった新しい発想が、技術や時間をかけずにできるような状況になってきました。

現金が一気になくなることは難しいが……

北澤:個人的にいま一番興味があるのは、(価格が一定のため、実生活で使いやすい)ステーブルコインです。サイファーパンクの人たちが考えるような「完全形態」ではないと思いますが、少なくとも、クリプトアセットなのにフィアットの担保があるという、ブレトンウッズ体制前の貨幣のようなものだと捉えています。このステーブルコインによって、よりデジタル通貨的な発想が出やすくなり、クリプトアセットを使って取引を行う際の課題を、解決してくれるかもしれません。

この先、現金が一気になくなることはまだ難しいですが、既に鉄道の切符を買うことはなくなりましたし、タクシーに乗る際も、「現金で支払うのがメンドクサイから」と、キャッシュレスで払えるタクシーを選ぶ人も出てきていますよね。そうやって徐々に「お金の摩擦係数」をプレイヤーがなくしていくことで、徐々にみんな気づいていくはずです。「あっ、これってめんどくさかったんだ」って。

そうした場面が、この先どんどん増えていくと思います。個人的には、できれば2019年中に「ウチのおかんがクリプトアセットを持っている」、というところまで行ければいいなと思っています(笑)。

(TEXT BY TOMONARI COTANI、
PHOTO BY KAORI NISHIDA)

北澤直(Nao Kitazawa)/1975年東京都生まれ。慶応義塾大学法学部卒業、ペンシルバニア大学大学院修了。モルガン・スタンレー証券に投資銀行員として6年間在籍し、不動産部門の成長に貢献。それ以前は弁護士として6年間、日本とNYにて金融・不動産関連の法律業務を手がける。2013年8月、お金のデザイン設立に参画。ロボアドバイザー「THEO( テオ)」のローンチとビジネス拡大に携わる。2018年より米国最大手の仮想通貨取引所 Coinbase に参画。日本代表として、日本市場の立ち上げに従事。

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「HILLS LIFE DAILY」編集部

六本木ヒルズ開業の翌年に創刊された、都心エリアのためのライフスタイルメディア。都市生活者に向け新たな情報やトレンドを伝え、アイデアやビジョンを広く提案しつつ、東京という街のクリエイティブな可能性を高めてゆくことを目的としている。

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