スシロー「一斉休業」が映す飲食産業4つの課題 「従業員からの声」を無視できなくなった

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ここが、スシローが一斉休業に踏み切ったポイントです。業績的には絶好調なので休みを入れる余裕がある。その一方で、店舗は労働量が増加傾向にあるため休みを入れないと現場の疲弊感が強い。こんな状況です。

従来の経営手法であれば、ここでバイトの数を増やし、シフトを工夫することで状況を乗り越えました。しかしあたらしい制約のおかげで、バイトの人数が簡単には増やせない。そうなると現場はより忙しくなってしまって、バイトの間での評判が落ちてしまう。ここが経営の最大のリスクで、「あのチェーンは過重労働がひどい」というような評判が一度ついてしまったら、チェーン店全体での求人活動に大きな支障をきたしてしまうのです。

さて。もうひとつ今回の一斉休業について触れておきたいことがあります。それは休業の日が2月5日に設定されたことです。

この日は中国の旧正月に相当する春節です。香港や上海でビジネスをしている人にはおなじみですが、中国圏ではこの春節には皆が一斉に長期休暇に入り、お店はみんな閉まってしまいます。中国全土では実に4億人が故郷に帰省するということで、駅や空港は大混乱に陥ります。

そして今回、「従業員からの声もあり」という言葉と、この実施日が春節であるという事実には、きっと強い関係があるのだなと思えるのです。なぜなら日本の小売り飲食チェーンで働く中国人労働者の数は、ものすごく増加しているからです。

飲食小売業界における今後の課題

現在日本で働く外国人労働者は約120万人で、これは前年比18%増のスピードで増えています。さらに政府は今後、単純労働者にも訪日ビザの門戸を開く方針です。これ以上の数で拡大していかないと人手不足で産業全体が回らない。それが業界の実情なのです。

その中で起きた春節期間のスシローの全国一斉休業でした。実はスシローは飲食業界でも異端児です。その原価率は50%を超えると言われています。つまり客から見れば高価なネタが安く食べられるのですが、この原価率は変動費です。さらに言えばパートなどの人件費も変動費。そう考えるとスシローは飲食小売業界では休業しても経営へのマイナスが出にくい企業でもあります。

ほかの小売り飲食チェーンは、スシローが始めたこの取り組みにこれだけの意味があるのだということを理解したうえで、「では自社のチェーンはどこまで機会損失を受け入れたうえで同じ問題に取り組むことができるのか」を真剣に悩まなければならない。スシローが始めてしまった以上、同じことを検討せざるをえない、そんな局面に入ってしまったということなのです。

鈴木 貴博 経済評論家、百年コンサルティング代表

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すずき たかひろ / Takahiro Suzuki

東京大学工学部物理工学科卒。ボストンコンサルティンググループ、ネットイヤーグループ(東証マザーズ上場)を経て2003年に独立。人材企業やIT企業の戦略コンサルティングの傍ら、経済評論家として活躍。人工知能が経済に与える影響についての論客としても知られる。著書に日本経済予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』(PHP)、『仕事消滅 AIの時代を生き抜くために、いま私たちにできること』(講談社)、『戦略思考トレーニングシリーズ』(日経文庫)などがある。BS朝日『モノシリスト』準レギュラーなどテレビ出演も多い。オスカープロモーション所属。

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