政府の市場介入回避は将来の大型介入を招く--ブラッド・デロング カリフォルニア大学バークレー校教授


 この15カ月間、FRB(連邦準備制度理事会)は財務省の金融規制の担当官の支援を得ながら、金融危機の影響を最小限に抑えようと努力してきた。とりわけ金融危機が深刻な恐慌に発展するのを懸命に阻止しようと努めてきた。

恐慌を防ぐことに加え、FRBはそのほかにも三つの副次的な目的を設定していた。第一に経済活動をできるだけ民間部門に委ねること、すなわち市場への政府の介入をできるだけ回避することであった。政府ではなく消費者が欲するものを生産することが経済活動だからだ。第二は、ウォール街の大手金融機関の経営者が自ら作り出し、危機を招いてしまったシステミックリスクを利用して利益を得ることがないようにすることであった。第三は、住宅保有者や個人投資家が必要以上の損失を被らないようにすることであった。なぜなら、そうした人々が犯した唯一の“罪”は、適切な分散投資が行われている世界では決して存在しないような、悪質なリスクを引き受けてしまったことだけだからである。

現在までのところ、FRBと財務省にゲームの勝ち目はなさそうに思われる。もし恐慌が避けられるとすれば、それは別の政策手段と別の権限を持つ別の政府機関がとった政策の結果であって、FRBと財務省の政策の成果ではないからだ。

FRBと財務省が危機の封じ込めに失敗したとすれば、その理由は経済的な意思決定を民間に委ね、ウォール街の金融機関の経営者を制御するという副次的な目標に過剰に固執したからである。FRBと財務省がこの二つの目標に適切なウエートを置いていたなら、現在、これほどの混乱には陥らず、国際的な恐慌の危険性ははるかに遠のいていたのではないかと思う。

金融機関の経営者が危機から利益を得るのを阻止するという願いは、FRBと財務省が監督や監視、保証をつけずにリーマン・ブラザーズを倒産させたことに端的に反映している。その決定の背後には、過去の危機の際に大企業を倒産させることができなかったため、株主が非常に大きな損失を被ったという苦い思いがあった。ベアー・スターンズ、AIG、ファニーメイ、フレディマックの株主は実質的に企業の所有者の立場にあり、その株式資産は1セントに至るまで没収されてしまった。

FRBと財務省が犯した二つの過ち

一方で、債券保有者や取引相手企業は全額が弁済された。FRBと財務省は、2007年後半と08年前半の経験から、政府が大手金融機関の債務と取引のすべてを保証すると、人々が解釈することを恐れていた。FRBと財務省は、それは健全なことではないと信じていたのである。

過剰なレバレッジ(借り入れ)を利かせた企業への融資には、当然、高い金利に見合うだけの高いリスクが存在するはずである。しかし、そのリターンとリスクの関係を明確にするには、どこかの時点で銀行を倒産させ、一部の債券保有者や取引相手企業に、政府は大手金融機関の支援を保証しているわけではないことを納得させる必要があった。

今から振り返って考えてみると、これは大きな間違いであった。08年の夏の時点で見られた市場に張り巡らされた広範な金融ネットワークは、政府がすべての大手銀行の無担保債を実質的に保証しているということを前提に、出来上がっていたのである。そうした保証がリーマン・ブラザーズの倒産で崩れ去ったため、大手金融機関は政府支援に依存しないで済むように急激に資本を増強し始めた。しかし、それは実際上、不可能であった。リーマン・ブラザーズの倒産は、民間部門だけではとても供給できない異常とも思える巨額の資本需要を作り出したのである。

この時点で財務省は二つ目の過ちを犯した。民間部門への介入を避けようとするあまり、金融システムの部分的あるいは全面的な国有化を回避しようとしたのである。今から考えると、財務省は危機が終焉するまで、国有化すべき金融機関を明確化し、そうした金融機関の普通株の購入を始めるべきであった。

こうした政策は“レモン社会主義”と呼ばれるもので、企業支配に重大な脅威をもたらし、大規模な腐敗が発生する可能性を生み出し、将来、非常に危険な経済への介入という前例を作り出すことになったかもしれない。

しかし、そうすることは、現在、私たちが直面している事態よりも悪い事態を招くことになったのだろうか。民間部門に介入しないという副次的な目的を達成することは、FRBと財務省が恐慌を回避するという最大の目的を達成する機会を失うことを意味していたのである。

もちろん、後講釈は簡単である。しかし、もし恐慌を避けることができるとすれば、それは古臭いケインズ的な財政政策の発動を通してであろう。すなわち政府が支出を増やすために直接経済に介入し、どの財やサービスを供給すべきかを決めることになるのである。財務省は市場への介入を忌避したが、その結果、皮肉にも最終的には政府が市場に介入しなければならない事態を招いたのである。

Brad Delong
1960年生まれ。ハーバード大学で経済学博士号を取得。93~95年に財務副次官補として93年度予算、GATTウルグアイ・ラウンド、医療制度改革に携わった。97年から現職。政治・経済のブログ「Brad Delong Semi−Daily Journal」でも有名。

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