東大出た「桜蔭の問題児」の壮絶だった44年 東大女子が抱える母親との葛藤

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そしてもう1つの転機は、結婚して子どもができたこと。最初の結婚相手は韓国人の男性。28歳で彼と暮らし始めて、「男の人と暮らすのはこんなに楽しい」とわかった。

「それまでは同じような過去があって、傷をなめ合うような人ばかりと交際してきたのですが、彼は違いました。親から逃れるための結婚でもあったのですが――。彼の家に行くと、家族が温かく迎えてくれました。韓国語の持つ強い言い方はあったけれど、なんでこんなに優しい人たちがいるのだろうと思った。ほわんとした安心感もあったけれど、一方で何か自分だけ違うという疎外感もあった。それを見ていた彼は、焦らずにこれから、徐々に家族になっていけばいいよ、と言ってくれました」

9年間で5人の子どもに恵まれた

彼は、田中のジグソーパズルの90%を埋めてくれたが、どうしても埋められないピースもあった。それは、すくすく温かい家庭で生まれ育った人にはわからない寂しさのようなもの。それでも長男を出産後、9年間の結婚生活で5人の子どもが生まれた。

子どもがすくすく育っていく中で、田中は「自分の子ども時代はなぜ、あんなに暗かったのだろうか」と考えた。

子育て中の母親たちは、子どもを育てているうちに、こんなに大変な育児をして育ててくれたんだ、と自分の母親の気持ちを思い感謝する。しかし田中は違った。

「勉強ができなければ幸せになれない」

「東大じゃなければだめ」

「なんで早稲田の人と付き合うの」

両親の価値観の押し付け。数々の強迫観念を植えつけ、走らせ続けた両親。特に母親に対しては許せない気持ちでいっぱいになった。

「親に腹が立って……。夜中に突然がばっと起きて、大泣きしました。『お母さんに、いますぐ死んでほしい』と思いました」。夫は、「お母さんが死んだところで、過去は変わらない。たしかに最初に会ったときは怖かったけれど、孫もできて、ずいぶん丸くなった。君も過去にこだわってないで先に進もう」と言ってくれた。

しかし田中は「そんなことで関係が変わるものじゃない」

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