海藻用いた「脱プラ品」に世界が注目するワケ インドネシアで公害と貧困の同時解決狙う

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クリスチャン氏は、科学者でも研究者でもない。不登校になって高校を中退。父親の命令でカナダにわたり、苦学してカレッジを卒業した。そして4年後の2015年にインドネシアに帰国した際、「町中にあふれかえるプラスチックゴミにショックを受け、世の中の役に立つ社会起業家を目指したいと思って会社を設立した」(クリスチャン氏)。

「食べられるカップ」がキャッチフレーズの海藻を用いたプラスチック代替製品の開発は、たまたま出会った日本のいか飯からヒントを得た。「インターネットで文献を検索して研究者に問い合わせるなど、試行錯誤を繰り返した結果、製品化にこぎ着けた」(同氏)。

生分解する一方で食べることもできる

一見すると通常のカップと変わらない。色づけも可能だ(写真:Evoware社)

クリスチャン氏によれば、飛躍のきっかけとなったのが、インドネシア・アトマジャヤ大学のノリアワティ教授との出会いだ。帰国後まもなくして、「食べられるカップ」を開発した後、「同教授と知り合うことで、それまで試行錯誤だった製品開発がスムーズに進むようになった」(クリスチャン氏)。ノリアワティ氏のノウハウによって生み出されたのが、生分解する一方で食べることもできる包装材料バイオパッケージングだ。

現在、自社工場の従業員は5人。全社員も20人程度で、プラスチック代替製品の製造販売はまだ初期段階。2019年中には量産にこぎ着け、数年後には他社へのライセンス供与を実現したいという。すでにその可能性に着目した、欧米や日本企業からの問い合わせや、国内外メディアによる報道も増えている。

企業による社会活動に詳しいCSRアジア日本代表の赤羽真紀子氏は、「クリスチャン氏のビジネスは、まさに環境・公害問題と、貧困などの社会問題の同時解決を目指すものだ」として高く評価する。クリスチャン氏は消費者の意識改革を促すべく、2月には現地の女優とタイアップした環境保全のキャンペーンにも着手する。

2015年9月、国際連合は、2030年をターゲットにした持続可能な開発目標「SDGs」を打ち出した。17にのぼる目標の中には、貧困の撲滅、海洋資源の保護など、クリスチャン氏が真っ正面から取り組んでいる課題が目白押しだ。

まさにSDGsを体現しているビジネスの成否が注目される。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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