来年度予算案の「101兆円」はバラマキ予算か 消費増税対策は大盤振る舞いだったが…

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新規国債発行は、2018年度当初予算では33兆7000億円だったが、2019年度予算案では32兆7000億円と1兆円ほど減った。一般会計の基礎的財政収支赤字は、2018年度当初予算の10兆4000億円から、2019年度予算案で9兆2000億円へと1兆2000億円減った。とはいえ、もし消費増税対策がなければ、新規国債発行は1兆8000億円減り、基礎的財政収支赤字は2兆円減ることになったはずだったが(消費増税対策の財源に建設国債を7800億円ほど増発している)。

ではなぜ国債発行や基礎的財政収支赤字が減ったのか。

それは、消費増税対策に2兆円も投じたものの、それ以外の歳出予算では2018年度までの予算編成の基調を維持できたからだ。その基調とは、社会保障費では年平均5000億円程度の増加、社会保障費以外の一般歳出(政策的経費)の合計では年1000億円程度の増加にとどめるというものである。それが2019年度でも維持できたという話である。

冒頭で述べたように、予算規模は101兆円余りだが、そのうち消費増税対策を2兆円としているので、それを除くと99兆円余りとなる。2018年度当初予算の規模97兆7000億円と比べて1兆7000億円しか増えなかった。

まず社会保障費は、消費増税で得られる増収分による社会保障の充実を除いた部分では、2018年度よりも4800億円の増加にとどめることができた。厚生労働省からは6000億円増やす予算要求が出ていたが、予算増を1200億円減らすことができた方策の1つとして、政府の決める薬価を引き下げることで社会保障費を500億円ほど減らすこととした。これは、社会保障費の増加を抑えることになるとともに、患者の薬代の自己負担を減らすことにも寄与する。

つまり社会保障費全体としては、2018年度と比べて1兆円ほど増えるが、それは消費増税で得られる増収分による社会保障の充実が加わるためだ。その充実分には、低年金の高齢者に対する年金生活者支援給付金の支給、介護人材の処遇改善に資するための介護報酬の引き上げ、低所得者に対する介護保険料負担の軽減強化などが盛り込まれている。

消費増税対策と引き替えで歳出改革続行?

一方、社会保障費以外に目を転じると、前掲の中期防では、5年間の防衛費の総額を大きく増やすことにしたものの、2019年度予算案では、2018年度当初予算から200億円(消費増税対策分を加えると700億円)の増加にとどまった。ただ2020年度予算以降で増加する可能性は残される。

ほかの政策的経費もほぼ2018年度当初予算並みとなっており、結局、社会保障費以外の一般歳出合計は、400億円ほどの増加にとどまった。さらに言えば、予期せぬ支出のためにあらかじめ使途を定めず備える予備費は、2018年度当初予算から1500億円増やし、それも含めた金額である。予備費の増加を除けば、社会保障費以外の一般歳出合計は、1100億円ほど減らしたとすらいえる。

こうしてみれば2019年度予算案は、消費増税対策以外のところでは、歳出改革を従来と同じ基調で取り組んだ予算といってよい。もしかすると、消費増税対策を差し出す代わり、2019年10月の予定どおりの消費増税と歳出改革の続行を認めてもらった。そんな予算編成だったのかもしれない。

結果として一般会計の基礎的財政収支の赤字は減った。確かに2025年度の国と地方を合わせた基礎的財政収支黒字化にはまだ遠い。2019年度予算案で基礎的財政収支赤字が減ったとはいえ、どちらかといえば、税収増のおかげという要因が大きいし、一般会計税収は2018年度当初予算と比べて、3兆4000億円ほど増えると見込んでいる。

消費税の増収1.8兆円を含めて3.4兆円もの税収増があるとはいえ、基礎的財政収支の赤字は1兆2000億円しか減っていないわけだから、それなりに歳出増(特に社会保障費の増加)に充てたともいえる。それに加えて、税収増頼みの改善では、税収が予想どおりに入らなかった場合、収支が思うように改善しないということになりかねない。今後は、歳出改革の努力を不断なく、行ってゆく覚悟が必要だ。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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