高級ブランドが続々「脱毛皮」宣言をする理由 毛皮に対する価値観は大きく変わった

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1つは、これまで決して表に出ることがなかった毛皮の生産工程の動画が、動画サイトやSNSで拡散されたことが挙げられる。真贋のほどは定かではないが、ウサギやフォックスなどの動物が、生きたまま皮を剥がされる動画は多くの人にショックを与え、リアルファーに対する嫌悪感が一気に世間に広がった。

もう1つは、「エコファー(フェイクファー)」の技術の進化だ。エコファーには、主に異型断面のアクリル短繊維が使われていて、本物の獣毛のような風合いを持つ高級品の領域では、日本が世界をリードする立場にある。リアルに限りなく近い風合いを持つエコファーの進化により、リアルファーの必要性がなくなってきているのだ。

もはや「ラクジュアリー=毛皮」ではない

3つ目は、ラグジュアリー市場の価値観の変化だ。ここ数年のモードは、ストリート・ファッションが席巻しており、「ラグジュアリー=毛皮」という価値観が減退した。いまや多くの世界中の若者にとって、ナイキのレアなスニーカーや、オフホワイトのフーディのほうが、毛皮より価値の高いものなのだ。以前はリアルファーを成功の象徴として着ていたアメリカのラッパーやセレブリティも、近年は積極的に着なくなってきている。

動物保護団体の活動も激しさを増している。9月には世界各国の動物保護団体が毛皮を使用しているプラダに対して、電話やメールなどで抗議行動を実施。これを受けてプラダは、段階的な毛皮の使用削減を明言。もはや、多くのトップメゾンにとって、リアルファーをショーで見せるのは、大きなリスクになってきている。

前述の通り、リアルファーの代替品として、需要が高まっているのがエコファーだ。エコファーの原料は、主に扁平型の異型断面のアクリル短繊維。断面形状を工夫し、さまざまな太さや長さを組み合わせることで、ラビット調、ミンク調などのさまざまな表情を作り出している。

エコファー向けの扁平型アクリル繊維は、三菱ケミカルの「ファンクル」、日本エクスラン工業の「ランビーナ」「フィーノ」、カネカの「カネカロン」などが代表的な存在で、世界でも高いシェアを誇っている。

こうした優れた扁平型アクリル繊維を、本物と見紛うようなエコファーに仕上げているのが、和歌山の高野口パイル産地の織物、編物メーカー。衣料向けでは岡田織物、中野メリヤス工業、日本ハイパイルの3社が強く、各社とも欧米の名だたるトップメゾンにエコファーを供給している。

エコファー専業のブランドも誕生している(写真:ハウル―提供)

海外ではエコファーの専業ブランドも出てきている。2015年にアメリカ・ニューヨークで創業した「HEURUEH(ハウルー)」は、PETA(動物の倫理的扱いを求める人々の会)の承認済みのエコファーを使ったブランド。リアルファーでは出せない発色のよいエコファーを使ったコレクションは、日本を含め人気が高まってきている。

ただ、エコファーにも問題がないわけではない。「エコと名前に付くので、なんとなく環境にいいイメージを持たれることが多いが、エコファーとはフェイクファーの呼称が変わっただけのことであり、とくに環境に優しいわけではない」(繊維業界紙記者)のだ。

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