「性犯罪予防」フランスはここまでやっている 痴漢の通報できるアプリやブレスレットも

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今年の10月にパリの地下鉄の人通りが多い駅構内で起きたことで、ある男が突然階段で前にいた女性のおしりを触ったんだ。しばらくしてその女性が振り向くと、その男も後ろを向いて反対方向に歩いていった。すると、その女性の少し後ろにいた、一部始終を見ていた別の女性が、「あの男あなたのことを触っていたわよ」 と女性に声をかけた。

ここまではよくある話なんだけど、被害者の女性は証言者がいたことで勇気づけられたのか、すぐにスマホを取り出してその男を動画で撮影しながら追跡することにした。男は撮影されていることに気づいて何度も振り返りながら歩き続けている。そしてしばらくして駅のホームに着いたところで立ち止まり、被害者の女性を数十秒ほどにらみつけた後で、どこかに去っていった。

ついに裁判にまで発展したが…

この様子を撮った動画はすぐにSNSで拡散され何百万人ものフランス人が閲覧した。そしてこの動画がアップされてからひと月もたたないうちに男は警察から尋問を受け裁判を受けることになった。有罪の判決が出た後、男は何かの間違いでただひじが少し当たっただけだと主張して控訴を申し出たため、新たな裁判の手続きが現在行われている。被害者の女性はこの一連の出来事に疲れていて、いくつかの記事で「毎日がこの裁判のことに追われてしんどい」と語っている。

この女性は、男がどんな反応をするかわからない状況で、とても勇気のある行動をとったといえるけど、男を有罪にするまでには忍耐力と大きな決意が必要になるということだね。日本にもこういった例はあるのかな?

くみ:私もその動画がSNSやニュースで話題になっているのを見た。私もまずは「動画を撮ってるスマホを落とされたり取られたり、殴るなどの暴力で応酬されたらどうするんだろう」と心配になった。

今の話を聞くと、加害者がすぐ逃げたことと、自分の近くに味方がいるってわかった安心感で、とっさに動画を撮ることを判断したのかも。一瞬の驚きの後で、事態を把握したときに急速にこみ上げてくる怒りや悔しさは、私も似たような経験があるからすごくわかる。

エマニュエル:もちろん痴漢やそのほかの性犯罪の問題は、現在ある対策で減らすことはできたとしても、完全になくすことなんて不可能だ。どうして痴漢がこんなにたくさん存在するのかをもう一度よく考える必要があるね。またこの話題についてはいつか話そう。

佐々木 くみ 執筆家、イラストレーター

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ささき くみ / Kumi Sasaki

東京生まれの30代。フランス在住10年を超す。2017年10月に、エマニュエル・アルノーと共著で自らの体験をつづった『Tchikan(痴漢)』をフランスで出版。イラストも手掛けた。

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エマニュエル・アルノー 小説家

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Emmanuel Arnaud

1979年生まれ、パリ出身。2006年より児童文学、小説、エッセーをフランスにて出版。2017年にThierry Marchaisseより佐々木くみとの共著『Tchikan』を出版。2000年代に数年にわたり日本での滞在、および勤務経験を持つ。個人のサイトはこちら

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