あの世田谷でマンションが「余りまくる」事情 「新築信仰」は終わりを迎えるかもしれない

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よく用いられるマンション在庫統計は、実は発売済みの住戸に対してしか在庫戸数をカウントしないのだ。一方でデベロッパーは、お客の引きが弱いと事前にわかれば一般に1期分の販売戸数を少なくして残りの発売を先送りにする。見えない在庫(つまり潜在在庫)は、未発売の住戸に現れるのだ。本特集では、その潜在在庫の試算も行った。結果、首都圏のほとんどの市区で潜在在庫は膨張しており、その総数はリーマンショック時期並みに到達しているとわかった。

大手は値引きを絞り、長期で売る作戦

普通、売れ残りがあると値引きが行われる。しかし現在の新築市場で値引きが頻繁になってきているという声は聞こえてこない。一部の中小デベロッパーは別として、大手はブランドイメージを悪化させる値引きよりも、供給量を搾り、長期で売るという作戦をとっているようだ。前述の潜在在庫の拡大にもそれが表われている。

2019年10月の消費増税によってさらにマンション価格が引き上がる。「異次元金融緩和の出口」が意識されるにつれて、超低金利政策の持続性も不透明になっている。これも本誌特集で試算しているが、1%強の住宅ローン金利上昇でも、800万円程度の購買力減少影響がある(東京都で平均的な年収の人の場合)。2020年からは東京都心の住宅地上空に国際線航空機の騒音がとどろくようになる。

一方でマンション価格はさほど下げられそうにない。人手不足による高い建築費用は東京五輪後も続くとみられている。また好立地のマンション用地が枯渇していることはデベロッパー各社で見解が一致するところだ。すると今後、新築分譲マンションの市場は縮小し、ますます厳選されたエリアで、限られた人だけに提供するものとなると見られる。

実際、『週刊東洋経済』の取材に応じた野村不動産、三菱地所レジデンスの2社はともに今後の戦略について、数量を追うよりも、個別の採算性を重視するという量から質への移行を口にした。スタイルアクト代表取締役の沖有人氏は「2024年ごろにも、中古マンションは販売総額で新築マンション市場を抜くのでは」と予想する。

長い間、日本の住宅市場を支配してきた「新築信仰」も、ついに終わりを迎えるかもしれない。

『週刊東洋経済』12月8日号(12月3日発売)の特集は「マンション絶望未来」です。
西澤 佑介 東洋経済 記者

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にしざわ ゆうすけ / Yusuke Nishizawa

1981年生まれ。2006年大阪大学大学院経済学研究科卒、東洋経済新報社入社。自動車、電機、商社、不動産などの業界担当記者、19年10月『会社四季報 業界地図』編集長、22年10月より『週刊東洋経済』副編集長

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一井 純 東洋経済 記者

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いちい じゅん / Jun Ichii

建設、不動産業の取材を経て現在は金融業界担当。銀行、信託、ファンド、金融行政などを取材。

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