マイクロソフト「中国AI研究所」最高峰の実力 中国エリート学生を惹きつける魅力は何か

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2016年、上海で創業された「Clobotics(クロボティクス)」も、卒業生によるスタートアップだ。マイクロソフトが開発した画像認識のAIやIoTの仕組みを用いたサービスを展開している。

上海拠点のスタートアップ「Clobotics」は、ドローンのカメラに画像認識AIを搭載し、風力発電タービンの自動で点検を行う。人間が命綱をつけて行っていた作業の代替となる(写真:Clobotics)

中国の大手電力会社には、カメラを搭載したドローンによる風力発電タービンの自動点検ソリューションを提供。また、コンビニなどの冷蔵庫の扉の裏にカメラモジュールを取り付け、何がいつ売れたかをリアルタイムでわかるシステムを、米コカ・コーラに導入した。

これまでに約25億円を調達した同社のジョージ・ヤンCEOは、「中国を実験場として、グローバル規模にビジネスを拡大したい」と意気込む。

グーグルやフェイスブックも中国で拡大

20年の歴史の中で、MSRAはマイクロソフトの技術革新、そして中国のAI人材育成を率いてきた。そして今年9月には上海に新たな研究所を開設するなど、研究開発を一層加速させる計画だ。ただ、競合各社も黙ってはいない。

グーグルは昨年12月、MSRAと同じ北京にAI研究所を開設した。同社の検索エンジンは中国政府が求める自主検閲を中止し、2010年以降、同国で使えなくなっている。

それでも、クラウド部門の前チーフサイエンティストで、中国出身のフェイフェイ・リー氏は発表当時、「AIがもたらすメリットには国境はない」として研究所の意義を強調した。今夏にはグーグルが検索エンジンの自主検閲を再開し、中国への再参入を計画していることが明らかになった。社内外で激しい反対の声が起こったが、それだけ可能性のある市場なのである。

さらに今年7月、米フェイスブックも中国子会社を設立することが報じられた。中国ネット通販大手アリババ・グループが本拠地を置く杭州に、研究開発拠点を設ける方針だ。ただ、中国当局からの承認は下りていないもよう。フェイスブックも中国では利用できない状態だが、人材獲得において現地拠点は重要だといえる。

20年前は想像もつかなかった中国の“AI大国化”。今や中国のAI関連特許の申請数はアメリカの5倍超の水準になった。MSRAは影でそれを支えてきたが、今後も競争力を維持できるかは未知数だ。アリババのほか、検索大手のバイドゥやチャットアプリ「WeChat」などを展開するテンセントなど現地企業も研究を加速している。中国を舞台にしたAIの開発競争は、激しさを増すばかりだ。

中川 雅博 東洋経済 記者

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なかがわ まさひろ / Masahiro Nakagawa

神奈川県生まれ。東京外国語大学外国語学部英語専攻卒。在学中にアメリカ・カリフォルニア大学サンディエゴ校に留学。2012年、東洋経済新報社入社。担当領域はIT・ネット、広告、スタートアップ。グーグルやアマゾン、マイクロソフトなど海外企業も取材。これまでの担当業界は航空、自動車、ロボット、工作機械など。長めの休暇が取れるたびに、友人が住む海外の国を旅するのが趣味。宇多田ヒカルの音楽をこよなく愛する。

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