会社の閉塞感を打破する「社内FA」の可能性 有能な人ほど同じ部門に固定される悲劇

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それが上司との関係の破綻です。自己申告で現在の部署から異動したいと書くと、その申告は人事部経由で直属の上司に伝わるのです。そうなれば、優秀な社員ですから上司は必死で引き留めます。飲みに連れて行き、

「あの部門に異動するのは無理だ」

となかば高圧的に説得したり、

「幹部として期待しているから」

と期待を示したり。激しい引き留め行為に加えて、「期待していたのでガッカリだよ」と信頼関係が失われたと吐露されたりすることもあったようです。こうしたケースを過去何度もみてきて、現在の社員たちは制度を活用をしなくなってしまいました。

こうした自己申告制度がうまく改定された仕組みが、筆者がかつて勤務していたリクルートにはありました。キャリアwebという名称で、年に1回、事業部門単位で新たに求めたい人材の要件が公表され、社内で募集されるというもの。

一定の社歴があればエントリーは誰でも可能。エントリーをすると、事業部門が選考と面談を行い、双方の希望が合えばいま所属している事業部門の思惑で引き留め工作などが行われないように、隠密に異動が決定します。面倒な引き留め行為には遭わない自己申告制度と言えます。

FA制度は会社にとっても合理的なツール

筆者は事業部長時代に数多くの募集を行い、優秀な人材を事業部門またいで獲得する貴重な方法として大いに活用させていただきました。

このキャリアwebはFA制度にかなり近い仕組みで優秀な人材が社内で新たなキャリアを得るには有効な手段だと思います。ただ、エントリーできる対象者が相当に多いので運用する人事部には相当な負担がかかっていたと認識しています。また若手の社員にも権利があるので、本来であれば同じ部門で経験を積むべき時期であったにもかかわらず、エントリーして、別の部署に異動。成長機会を逸してしまったケースにも遭遇しました。

そこでプロ野球のFA制度のように同じ部署での一定の経験と、一定の活躍をもって、選ばれた社員だけが得られる権利にするべきではないでしょうか?

FA権を得られる努力をして、それから社内の別の事業部門とも接触。自分をどのように評価してくれるのか?を確かめる機会を経て、そのまま同じ部署で活躍する、または別の部署への移籍を自己責任で判断するのです。こうした仕組みの導入は

・社員が自身のキャリアアップに意欲的になる
・社員が自律性を育成する機会になる
・組織の活性化

につながることでしょう。

さらに言えば、堂々とFA権を行使できる社内の空気でなければなりません。人事部だけでなく経営幹部を巻き込み、運用をしていくことで継続され、成果が享受できます。すでにFA制度の導入を行った企業がわずかながら出てきています。今後の動向に注目していきましょう。

高城 幸司 株式会社セレブレイン社長

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たかぎ こうじ / Kouji Takagi

1964年10月21日、東京都生まれ。1986年同志社大学文学部卒業後、リクルートに入社。6期トップセールスに輝き、社内で創業以来歴史に残る「伝説のトップセールスマン」と呼ばれる。また、当時の活躍を書いたビジネス書は10万部を超えるベストセラーとなった。1996年には日本初の独立/起業の情報誌『アントレ』を立ち上げ、事業部長、編集長を経験。その後、株式会社セレブレイン社長に就任。その他、講演活動やラジオパーソナリティとして多くのタレント・経営者との接点を広げている。著書に『トップ営業のフレームワーク 売るための行動パターンと仕組み化・習慣化』(東洋経済新報社刊)など。

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