「国会1月4日召集」は安倍首相の「日程政治」か 「日ロ」「同日選」視野に参院選投票日を選択?

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このため、政府が1月4日召集を決めた段階で、永田町では「首相は7.10同日選に踏み切る気だ」との声が広がり、各党の衆院議員も慌てて選挙事務所の確保などに走った。2016年は重要外交日程として、5月下旬に伊勢志摩サミット(先進国首脳会議)開催が予定されていた。この日程を決めたのも首相だ。選挙戦直前に日本が議長国となるサミット開催という展開は、「予測される2019年の状況とも二重写し」(自民長老)となる。

首相は2016年の通常国会会期末となった6月1日の記者会見で、2017年4月に予定していた消費税率の10%への引き上げを2019年10月まで2年半延期することを表明。延期の是非については6月22日公示-7月10日投開票の参院選で「国民の審判を仰ぐ」として、同日選には踏み切らなかった。解散見送りの最大の理由は熊本大地震への対応を優先したからとみられている。記者会見で増税再延期を「お約束とは異なる新しい判断だ」と力説した首相だが、参院選は自民党が56議席獲得と圧勝し、衆参での「改憲勢力3分の2」が実現し、安倍1強体制が確立した。

「亥年の悪夢再現」を回避したい首相

首相は今年10月15日の臨時閣議で2019年10月からの消費税10%を「予定通り実施する」と明言した。しかし、軽減税率の線引きやキャッシュレス決済での2%ポイント還元などの「その場しのぎの増税対策」(自民税調幹部)で、引き上げ前後の大混乱は必至とされる。野党側は「増税する経済状況ではない」(立憲民主党)と批判している。「2度あることは3度」の格言もあるだけに、来年も首相が解散・同日選断行のために「日ロ交渉とは別に、増税の半年延期などを言い出すのでは」(自民幹部)との疑心暗鬼も広がっている。

2019年は12年に1回の統一地方選と参院選が重なる年だ。第1次安倍政権下だった前回の2007年に、自民党は参院選で37議席という歴史的惨敗を喫し、首相は同年9月に退陣表明した。まさに首相にとっては「亥年の悪夢」(側近)だったわけで、同じ亥年の来年参院選は「首相はどんな手段を使ってでも悪夢再現は回避したい考え」(同)だとされる。だからこそ、早くから日ロ解散説や消費税再々延期説が囁かれるのだ。

しかし、「すべては仮定の積み重ねで明確な根拠に乏しい」(自民長老)のも実態だ。会期を延長して日ロ解散に打って出ようとしても、日ロ首脳会談で北方領土返還での「明確な合意取り付け」がなければ、逆に、有権者の反発は必至だ。消費税再々延期も「まさに公約違反で、年後半の予算執行も滅茶苦茶になる」(自民税調幹部)ことは避けられず、「同日選で衆参両方とも負ける原因になりかねない」(自民選対)との指摘も多い。

さらに、首相が議長となる2019年6月末の「大阪G20」も、「米中貿易摩擦が一段と激化していれば、両国の対立によって、協議が空中分解する」(外務省筋)とのリスクも小さくない。それぞれが結果的に裏目に出れば、「参院選単独でも同日選でも自民敗北につながる可能性は否定できない」(自民幹部)わけで、首相にとっても「現時点では、取らぬ狸の皮算用」(同)でしかない。このため、首相周辺でも「政局運営のテクニックとして同日選論を流布しても、“虎の子”の『与党の衆院3分の2勢力』を手放すような解散はあり得ない」(官邸筋)との見方が大勢だ。
    

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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