悩めるガリバー・野村証券に「生みの苦しみ」 大幅減益でも「売上目標なし営業職」を拡大

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「ご旅行はいかがでしたか?」。野村証券千住支店の梅津佑佳さん(33)は、来店した80代の男性に笑顔で話しかけた(表題の写真)。男性はかつて大手企業に勤め、現在、野村証券で資産運用している。梅津さんはまず、今夏に行った国内旅行の話を尋ね、現地で起きたちょっとしたトラブルに「大丈夫でしたか」と気遣った。

男性のこの日の訪問目的は、野村証券から送られてきた書類の確認。15分程度で終わったが、その後も今後の住まいの希望を話したり、子どもたちの近況を話したりと、会話は1時間ほど続いた。男性は最後に「今度はうちにいらしてください」と笑顔で帰っていったが、梅津さんから金融商品の説明など、商談は一切なかった。

梅津さんの職種名は「ハートフルパートナー」。野村証券が2017年4月から試験的に始め、今年4月から全国149部店180人に拡大させた、新たな高齢者専門の担当者だ。顧客と長期的な関係を作れるよう、転勤のない総合職が就く。商品の販売目標などはなく、預かり資産の離脱防止や家族との連携、相続・贈与・遺言など資産承継の実現などが評価の対象となる。

資産管理型ビジネスへの転換

梅津さんは、「通常なら短時間で済むようなことでも、ご高齢のお客様では2~3時間になってしまうことがある。訪問中心のお客様対応はゆったりと時間を取ることを心掛けている。体力や認知能力の低下がある中で、きめ細やかな対応が求められ、何かあった時には早い段階でご家族と連携することも必要」と話す。

ハートフルパートナーのような取り組みはなぜ必要なのか。ブローカレッジ主体の時代は、証券会社は顧客の全資産の中から株式投資用などリスクをとれる資金を切り出し、その範囲内で頻繁な回転売買を行うことで手数料を何度でも稼ぐことができた。

これに対し、資産管理業務の収益は「預かり資産額×手数料率」となる。リスクのとれる資金だけでは金額に限界があり、収益を増やすことはできない。銀行など他の金融機関に預けている資産をいかに自社に預けてもらうか。それが証券会社の命運を決める。そのため、ファンドラップ(低リスク運用を含め、顧客の運用目的に沿って国際分散投資を行うもの)や不動産関連ビジネスを強化してきた。

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