《介護・医療危機》認知症悪化、入院困難…。厳しさ増す高齢者の生活

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【Cさんの場合】男性・86歳・要介護3

今年夏から認知症が急速に進み、弄便などの問題行動が深刻化。妻(82歳)による自宅介護が困難に。娘が市内の高齢者住宅に入居させるとともに、特別養護老人ホームへの入所を申請中。要介護認定の区分変更も申請。

東京都立川市内の都営住宅に住む勝田肇さん(仮名、86)の認知症が重くなったのは今年夏。暑さ寒さもわからなくなり、ストーブをつけて過ごすようになった。電気毛布をかぶって寝たあげく、脱水症状を起こし、8月には救急車で3度も病院に運ばれた。9月には41度の高熱を出して2週間入院。ところが、入院先で認知症が進み、「家に帰る」と看護師を手こずらせた。

病院では大騒ぎしたり、車いすから落ちてあざを作ることもしばしばだった。このままでは見通しが立たないため、いったん退院。ところが自宅に帰ってきたとたん、おむつの中から自分の便をつまんでテーブルに並べたりする「弄便」という問題行動を起こすようになった。おむつをつけていることが理解できず、ふとんやシーツも便まみれになった。

献身的な介護を続けてきた妻のキミさん(仮名、82)や長女の文さん(仮名、55)もギブアップした。これ以上の介護は困難と感じたのは、火事を起こしかねないと思ったためだ。肇さんは夜中に起きて鍋に火をかけて寝てしまった。気がつくと台所が煙でもうもうとしていた。

肇さんの介護度は、それまでの要介護1から、9月に要介護3(中度)に上がった。これを機に、デイサービス(通所介護)を週5回に増やす一方、月1回程度のショートステイ(短期入所生活介護)を利用することで、文さんたちは自宅で肇さんを看取ろうと考えていた。しかし、認知症の深刻化で断念。方々の特別養護老人ホームに入所を申し込む一方、「ケアレジデンス」と称する高齢者向け賃貸住宅の存在をケアマネジャーから教えてもらい、急きょ、問い合わせた。すると、「今すぐにでも入れます」との返答があった。

一時払いの入居金は200万円で、月々の家賃(食費、共益費含む)は15万円。介護保険サービスを使う場合は、別に費用がかかるという。

要介護3のままだと優先順位が低いので、特養への入所はいつまでも待たされるおそれがある。そのため、介護度の区分変更を立川市に申請した。そして肇さんには、当分の間、高齢者住宅で過ごしてもらうことにした。10月初めのことだ。

文さんが心配になったのは、施設長から「当分、会いに来ないでください」と言われたためだ。心細くなって帰ると言い出しかねないからだ。ほかの入居者に迷惑をかけて退去を迫られたりしないか、認知症がさらに進んで、体が弱っていないか……。文さんの不安は尽きなかった。

文さんが父に面会したのは、1カ月以上が過ぎた11月半ば。どきどきしながら父を訪ねた。ところが、思いがけない光景を目にした。

「私の顔を見た途端、父はにこりとし、『どうしたんだ。久しぶりだなあ』と一言話しました」(文さん)。3食きちんと食べ、太って色つやもよくなっていた。着替えも自分で行い、風呂も週2回きちんと入っていた。深夜の廊下の徘徊(はいかい)は今も続いているが、認知症の進行を抑える薬を嫌がらずに飲むようになっていた。

結果オーライともいえるが、文さんは安堵するとともに、特養ホーム探しを続けることにした。

(週刊東洋経済)

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