ごみ収集の現場は「ティール組織そのもの」だ 清掃車に乗って考えた地方自治

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初めて向かった現場はファミリータイプのマンションだった。容量いっぱいに紙おむつなどを詰め込んだ袋が多く、雨を吸ってずっしり重い。60リットルのごみバケツいっぱいに詰められたごみを、投入口まで抱え上げてひっくり返す作業は想像以上の辛さだ。さらにプレス車の回転板は、縄跳びに入っていくようにうまくタイミングを見計らって投げ込まないと、袋が落ちてしまい拾い上げるのに余分な体力を使うはめになる。しかも均等にタンクの中に押し込まれるように左右に投げ分けなければならない。

危険とも隣り合わせだ。ごみ袋の中には注射針が入っていることもあるため(新宿二丁目の現場では、注射器だけでなく避妊具や下剤、人糞まで入ったごみ袋があった……絶句)慎重に袋を取り扱いたいが、時間がそれを許さない。職員は破傷風のワクチンを接種して仕事に臨んでいるという。

ときには大けがに繋がる危険性も

スプレー缶や乾電池が入っていれば、圧縮されるうちに爆発し、火災を起こすこともある(近年、全国で清掃車の火災が増えているという)。ひとたび火災になれば、運転手や作業員が危険にさらされるのはもちろん、1台900万ほどする清掃車が廃車になってしまう。

著者はルール破りのごみが多いことにも憤りをおぼえる。代表的なものが、きちんと水気を切っていないごみだ。この手のごみはプレスされる時に水分が飛び散る。もしそれが住宅や通行人にかかれば取り返しのつかないトラブルになってしまう。で、どうするかといえば、なんと!作業員が身を挺して盾となり、ごみ汁の飛散を食い止めるというのだから驚く。本書にはこのように読んでいると切なくなるような話が随所に出てくる。

新宿区には清掃工場がないため(荒川、台東、千代田、中野、文京にもない)、タンクが満杯になった清掃車は、指定された遠方の清掃工場に向かう。そして作業員は別の場所で待機している清掃車のもとへ走るのだ。こうして2台の車を使い回すため、交通事情によってはどうしても待ち時間が生じてしまう。にもかかわらず、清掃車の戻りを待っている職員を見かけた住民からは、「働いていない」などという苦情が寄せられるという。おなじみの「税金の無駄遣い」というやつだ。

だが、苦情を述べる人たちは、次のような言葉をどう受け止めるだろうか。清掃車の運転手は、収集作業が終わると、翌日に備え車を洗う。臭いがこもらないようタンクの中まで丁寧に洗浄するのだが、その思いをある運転手はこんなふうに語っている。

「ごみという、汚く、臭い、誰もが嫌がるものを運搬するのだから、車まで汚れていれば、それを見た住民はいい気分にはならない」

ところが、そんな思いを踏みにじるかのように、ある女性運転手は、信号待ちの際、見知らぬドライバーから「おねーちゃん、臭くねーのか」などと心ない言葉を投げつけられる。

「21世紀は都市の時代」などと言われ、東京はその最先端のように思われているが、都市の暮らしを本当に支える縁の下の力持ちは、ごみ処理のような仕事に携わる人々だということを、どれだけの人がわかっているのだろう。深く考えずに「税金の無駄遣い」と叫ぶ人に、それならお住まいの区に新しく清掃工場をつくっては?と問いかけてみたい。途端に威勢の良かった言葉は、勢いを失うはずだ。

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