中東勢台頭で高まる石油化学業界の再編機運

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もはや緊急事態 商いすら成立しない

これまでも石化業界では、02年に旭化成、三菱化学、出光石油化学の3社が、エチレンから生産されるポリスチレン事業を統合するなど中間製品の事業再編は一部、行われてきた。しかし、基礎原料であるエチレン事業は、輸入関税の引き下げで再編機運が高まった際も、中国バブルという神風で沈静化に向かった。同様に企業の合従連衡についても、00年、三井化学と住友化学が経営統合を発表したが、03年に統合比率の意見相違があり白紙撤回した経緯がある。

石化業界の再編が起こりにくかった背景には、国内プラント独自の事情もある。世界最大のエチレン生産能力を持つ米国では、石化プラント設備の大半がテキサスとルイジアナの2州に集中。その大半がパイプラインで結ばれており、設備再編も容易な環境にある。他方、日本の石化コンビナートは全国に分散しており、それぞれが孤立。設備の形態が再編への障壁となっていた。

しかし石化業界では現在、中東勢の台頭に加えて中国の需要落ち込みも重しとなっている。稼働率は、08年10月に89・1%と、10年ぶりの低水準となり、「採算ラインぎりぎり」(大手化学メーカー)の状況。三井化学や、三菱化学など各社相次いで減産に踏み切っている。また中国需要の低迷は、合成ゴムの一種であるウレタンの原料「TDI」も直撃。06年11月に中国のトン当たり市況が1トン=5500ドルだったのが、08年10月末には同3500ドルにまで急落した。三井化学は10月末、TDI生産設備の稼働率を50%にまで落とし、「もはや商いすら成立しない」(藤吉建二・三井化学社長)という緊急事態に陥っている。

今まで幾度となく語られてきた業界の供給過剰体質は、ここ5年、中国バブルという神風によって問題が先伸ばしにされてきた。が、09年、中国需要の沈下と新たに迫る中東勢力の脅威によって、石化業界はいま一度、再編という課題に対峙すべき時期を迎えている。


(二階堂遼馬 =週刊東洋経済)
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