市場が見透かす弥縫策、時価会計凍結は抜本策を遅らせるだけ

市場が見透かす弥縫策、時価会計凍結は抜本策を遅らせるだけ

世界恐慌のとば口に立っているという認識が広がり、“政策総動員”が合言葉になりつつある。だが、何でもやればいいというものでもない。経済の基本的な健全性を損なう政策であっては意味がない。

10年前、日本の不良債権問題がデフレスパイラルに発展したときと同様に、欧米で時価会計悪玉論が浮上している。彼らの理屈はこうだ。証券化商品などの金融商品の価格下落が決算を悪化させる。その処分が加速されると、ますます時価が下がり、ますます決算が悪化する。FRB(米連邦準備制度理事会)のバーナンキ議長の「投げ売りされた価格が本当の時価か」という疑問だ。

もちろん、信用収縮と実体経済悪化のスパイラルは、食い止めなければならないが、政治的圧力は規制監督当局や会計基準設定主体にかけられ、それは日本にも飛び火した。

「貸し渋る銀行はけしからん」。言われた銀行経営者は、「資本比率の規制があるので、貸せません」。

貸し渋りの原因は、銀行に課せられた国際統一基準であるバーゼルIIの自己資本比率規制のせい、そしてその指標を悪化させる時価会計のせいだ、というわけである。

簡単に解説すると、預金者保護を目的として、銀行には、財務の健全性を維持するために、リスク資産(資産にリスクに応じたウエイトを付けたもの)に対する必要な自己資本の額が決められている。従来のルールでは、国際的に業務を行う大手銀行や地銀の一部が採用する国際統一基準の場合、有価証券に評価損が出ると、その約60%をTierI(自己資本の基本項目)から控除する。評価益が出るとその45%をTierII(補完的項目)に算入できる(比率は税効果勘案後)。国内でのみ業務を行う国内基準採用の銀行は評価損の控除のみ、適用される。

つまり、評価益の減少や評価損の発生が、自己資本を減らしてしまう。自己資本比率を下げないためには、分母であるリスク資産の削減が必要となり、リスクのある投融資が減らされるというわけである。

政治的圧力の前の妥協策

時価会計をめぐる議論として浮上したのは3点だ。

第一点は、市場が、極端に流動性を欠く状態になった金融商品、つまり売りばかりで、買い手がつかない状態では、市場価格でなく、理論価格を評価に採用してもよい、というものだ。もともと会計基準では、時価とは「公正な評価額をいい、市場において形成されている取引価格……(中略)に基づく価額をいう。市場価格がない場合には、合理的に算定された価額を公正な評価額とする」としているので、「市場価格がない場合」を適用すればよいとの確認を会計基準委員会が出した。

ただし、算定モデルに、市場価格よりも妥当性があるという納得が、周囲から得られなければ、問題の隠蔽となる。個別に、監査法人と議論が進められることとなった。

まず、適用が可とされて、大助かりとなったのが、変動利付国債の評価だ。国債なので満期まで持っていれば額面で還るのに、大幅に理論価格から外れた市場価格がついていた。今年の中間決算で、三菱UFJフィナンシャル・グループは、その理論価格への変更で1200億円も評価損益が改善した。地銀クラスでも採用したところは大手で100億円単位、中堅は10億円単位で改善している。これに対し、同じく理論価格からの乖離が問題とされた物価連動債については、妥当性のある理論価格が出せないこと、保有も少ないことから、各銀行とも見送っている。

第二点は債券の保有目的区分の変更である。債券の保有目的は損益計算書に損益を計上する「売買目的」、評価損益を欄外に開示する「その他」、額面で還ってくるので償却原価での表示でよい(評価損益を開示しなくてもよい)「満期保有目的」がある。日本では、従来、債券を取得した時点で、保有目的を決めたら、原則、変更できなかった。ところが、米国の会計基準であるFASは途中変更を認めている。

欧州が採用する国際会計基準のIASでは、従来認めていなかったのに、10月、区分変更が認められた。しかし、政治的ゴリ押しにより、公開草案を通じた意見募集などの議論を尽くさずに決められたこと、10月に決めたのに、遡って7月の数字から修正できるとしたこと、保有区分の変更により、いったん減損した損を戻し入れできるなど異例な措置ずくめで、市場関係者や会計士たちからは批判が高まっている。

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