過疎地の足「デマンド交通」は万能ではない 利用者少ない地域でタクシーを使う事例も

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今まで、道路の幅員の関係や採算性の問題から、公共交通自体がなかった場所にデマンド交通を導入するのであれば、登録や予約が必要であっても、利用者からの不満はほとんどないだろう。だが、これまで路線バスやコミュニティバスが運行されてきた地域では、予約の必要なデマンド型交通への急な切り替えは、利用者に不便をもたらすことになる。

滋賀県長浜市の「こはくちょうバス」。コミュニティバスだったが今年10月に乗合タクシー化された(筆者撮影)

筆者は、路線バスやコミュニティバスが乗客減で空気を輸送している状態であれば、まずはデマンド型交通ではなく、ワゴン車を用いた乗合タクシーへ移行させることを検討する必要があると考える。決まった時間に決まった路線を走る乗合タクシーであれば、それまでのバス停をそのまま活用できるうえ、予約が不要で利用する際の抵抗が少ない。また「登録証」なども不要のため、非居住者であっても、利用したい人を排除することにはならない。

その際、乗合タクシーに置き換わる旨と、利用が低調であれば公共交通の存続が危ぶまれる旨を、広報などで地域住民に伝える必要がある。それでも利用が低調であれば、デマンド型交通への切り替えを考えなければならない。

デマンド型が向くケースは?

一方、人口密度が低く、道路の幅員が狭くて路線バスの運行が不可能であり、かつ山間部で高齢化率の高い地域などは、デマンド型でなければ対応が難しいと言える。つまり定時定路線型の公共交通が成り立たず、四国山脈のように急峻な地形で、山腹に高齢者が暮らす地域に対しては、ドアtoドアのデマンド型交通が望ましいと言える。

ただ行政も財政難であることから、少ない財政で効率良く交通手段を提供しなければならない。その場合、路線バスやコミュニティバスが存在している地域であれば、路線バスなどと接続する形でデマンド型交通を設定して、公共交通空白地域を解消する方法が有効である。路線バスと接続する運行形態にすれば、利用者の減少に悩んでいるバス事業者にとっても利用者の獲得につながり、地域住民、バス事業者・タクシー事業者・行政のいずれもが、ウィン・ウィンの関係が構築できる。

登録制に抵抗がある人や非居住者でも、デマンド型交通を利用したい人はいる。やむをえず登録制にする場合でも、居住者と非居住者(登録証を持たない人)で運賃を変えて対応する方法も考えられる。住民税や固定資産税を支払っている居住者は、非居住者よりも割安な運賃で提供するようにすればいい。

デマンド型の公共交通は、導入する地域と方法を十分に検討して導入しなければならないと言える。

堀内 重人 運輸評論家

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ほりうち しげと / Shigeto Horiuchi

1967年生まれ。立命館大学経営学研究科博士前期課程修了。運輸評論家として執筆や講演活動、ラジオ出演などを行う傍ら、NPOなどで交通問題を中心とした活動を行う。著書に『ビジネスのヒントは駅弁に詰まっている』(双葉新書)、『観光列車が旅を変えた: 地域を拓く鉄道チャレンジの軌跡』(交通新聞社新書)、『地域の足を支える コミュニティーバス・デマンド交通』(鹿島出版会)ほか。

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