不景気でも業績拡大! 大手共済の知られざる実力を探る

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 掛け金の割安さを武器に業績を拡大する大手共済。特定の地域や集団内での相互扶助が共済の特微だが、景気失速の今でも全国規模で拡大している。

にもかかわらず、共済の実態はいま一つわかりにくい。その理由は共済の仕組み自体にあるといってもよい。県民共済や全労済の主要な加入経路は新聞の折り込みパンフレット。これに必要事項を記入したら申込書を郵送して契約成立となる。生保と異なりセールスレディが勧誘することはない。つまり共済にかかわる人の顔が見えないのだ。

JA職員が共済商品を取り扱うJA共済にしても、事情は同じ。生保トップの日本生命に匹敵する規模ながら、主要な顧客はJAの組合員。農業とは縁のない家庭がJA共済の業務活動を目にする機会は滅多にないのだ。

そこで、本特集では部外者にはうかがい知れない大手共済の現場に密着。低コスト経営や好業績の秘密を解明した。

【リポート1】埼玉県民共済--掛け金の97%を還元する業務カイゼンの秘密

トップバッターは埼玉県民共済。一律掛け金・一律保障で人気の「生命共済」の生みの親であり、県民共済のスキームを全国に広げた。他県の生命共済は全国生協連が引き受けているが、埼玉だけは独自引き受け。そのため、生命共済の掛け金に対する割戻金(配当に相当)率はなんと35%。支払共済金(保険金に相当)と合わせると実に掛け金の97%を加入者に還元している。事業経費は残り3%と運用収入で賄っている。「もし運用環境がよければ、掛け金の100%還元も夢ではない」(白川哲也理事)という。それにしてもこれだけの低コストで運用できる理由はどこにあるのだろう。

埼玉県民共済の朝は早い。午前7時には管理職、7時半には一般職員がほぼそろう。席に着く間もなく、すぐに掃除に取りかかり、事務所内から廊下、ロビー、建物の周辺に至るまで、プロ顔負けの手順できれいにしていく。「業者に頼めばおカネがかかりますからね。還元率を少しでも高めるために、ワックスがけなど特殊な掃除以外は、業者の手を借りずに自分たちでやります」(神戸章二理事)。

もちろん、節約だけでは還元率は増えない。組合員を増やすことによるスケールメリットで事業効率がアップし、還元率を増やせるわけだ。

現在、取り組んでいるのは、死亡保障や医療保障の支払い請求が届いたその日に共済金を支払う当日払い運動。「入院したり死亡したりした場合は、一刻も早くおカネが必要。それに応えることこそ、最も重要なサービス」(神戸氏)。

当日に振り込むためには、午後2時までにすべての作業を終えなければ間に合わない。だから、朝7時台から職員が出社しているのだ。しかも、支払い請求書が郵送されるのを待っていてはスタートが遅くなるので、郵便局員の配達を待たず、朝7時半に職員が近くの郵便局に請求書類を取りにいく。

7時50分、ちょうど掃除が終わった頃、グレーの請求書類でいっぱいのトランクを抱えた職員が郵便局から戻ってきた。請求書の数は1日平均400通前後。県民共済宛ての一般書類の封筒はブルーなのに対して、支払い請求書の封筒はグレー。色の仕分けは郵便局の職員に頼んでやってもらっている。

会議テーブルの上にトランクが載せられると、即座に調査関係の職員十数名が集まり書類の開封が始まった。それを、「病気」「不慮の事故」など支払い事由別に素早く分類していく。9時前には、分類し終えた書類が事務処理部門に回され、支払い作業が始まる。調査が必要な特殊ケースは1割程度。それ以外は午前中に支払い処理が完了した。

書類が不備でも共済金を支払う

加入申し込みの処理もスピーディだ。朝8時すぎ、別の職員が郵便局に出向いていった。今度はブルーの封筒、つまり申込書や手続き変更など一般書類を取りにいくためだ。9時に戻ってくると、こちらも請求書類同様に、たちまちテキパキと処理されていく。

9時を過ぎると、コールセンターの電話が鳴り出す。月に2回、新聞の折り込み広告を入れた日以降の数日間は特に忙しい。センターの人員を増やせば人件費がハネ上がるので、繁忙時間になると他部門の職員がやってきて、にわかオペレーターになる。「職員のローテーションが盛んなので、ちょっと特殊な支払い調査の仕事を除けば、全員が、ほぼすべての業務ができる」(神戸氏)。

だから、コールセンターに限らず、忙しい部門に、臨機応変に他の職員が駆けつけられるわけだ。その背景には、商品がシンプルでわかりやすいことがある。

現在は、葬式の当日に死亡共済金を支払う死亡訪問に取り組んでいる。職員が死亡を確認するから、請求書に押印する印鑑がなくても支払ってしまう。書類は後で完璧にすればよい。「生保は書類に少しでも不備があったら支払わないが、うちは違う。どちらが加入者本位かは一目瞭然でしょ」(白川氏)。

販売員に頼らず、テレビCMも打たず、折り込み広告などのパンフレット類だけが頼りの埼玉県民共済にとって、加入者の口コミは重要なPR手段である。加入者サービスを充実させれば、口コミで評判が高まり、会員数が増え、事業効率がさらに改善する。コストカットではない業務のカイゼン。還元率100%達成まで、埼玉県民共済は、努力の手を緩める気配はない。

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