韓国が本当は北朝鮮の非核化を望まないワケ 彼らの頭には「南北共同の核保有」がある

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だがこの映画こそは、南北が民族の対立を克服して核を共有し、傲慢なアメリカを見返す、といった韓国人の夢を率直に語った。

小説『ムクゲノ花ガ咲キマシタ』(1993年)も南北が合同軍を作り、北の開発した核兵器を日本に撃ち込み屈服させる――というストーリーだった。100万部売れたとされ、映画化されて賞も受けた。

その24年後に韓国人は「民族の核を持つ」という夢を、映画を通して再び確認し合った。ただ、今度は見返す相手が日本ではなく、アメリカになった。韓国人の心の底の主敵の変化を反映したものだろう。

北に支配される南

では、保守や中道の人たちも「北の核は自分たちの核」と本気で考えるのだろうか。それに関する世論調査は見当たらない。ただ、前述の峨山政策研究院の調査は回答者に政治的立場も聞いている。

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自分を「保守」と考える人の「北朝鮮好感度」は4.32。「進歩」の5.37と比べれば低かったが、「中道」の4.34と大差がなかった。保守層も北朝鮮への警戒感を一気に緩めたのだ。

韓国はアメリカから同盟を打ち切られそうになっている。アメリカとの同盟を失った場合、韓国には「核の傘を失う」シナリオか、「北の核の傘に入る」シナリオしか残っていない。

保守や中道も核の傘が欲しいというなら、北朝鮮のそれに入るしかないのだ。彼らも「北朝鮮と共有とはいえ、核保有国になったのだから」と自分を納得させるかもしれない。

ただ、冷静に考えれば「核を持つほう」が「金があるほう」を支配するに決まっている。しかも「核を持つほう」は名うての人権蹂躙国家だ。いくら同胞といっても、そんな国に支配されて韓国人が満足するとは思えない。

韓国人はどこで道を間違って、不幸な迷路に入り込んでしまったのだろう。なぜ、アメリカから捨てられるまで無神経な外交を続けたのだろうか。

鈴置 高史 韓国観察者

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すずおき たかぶみ / Takabumi Suzuoki

1954年、愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、日本経済新聞社に入社。ソウル特派員、香港特派員、経済解説部長などを歴任し2018年に退社。2002年ボーン・上田国際記者賞を受賞。著書に『朝鮮半島201Z年』など多数。

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