ついに着工「インドネシア高速鉄道」最新事情 沿線に立ち並ぶ中国語の旗、開業は2024年?

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中国の掲げる「一帯一路」政策において、高速鉄道輸出は必ずしも目論見どおりに進んでいないのが実情だ。そんな中、ジャカルタ―バンドン間が開業すれば東南アジア初の高速鉄道となり、中国にとって対外的なアピールにもつながるわけで、今さらインドネシア側の不備を理由に融資を中止にするとは考えづらい。

注目すべきは来年の大統領選挙の行方である。ジョコウィ氏の対抗馬となる野党のプラボウォ氏は、特に中国からの投資額急増を政権批判の材料にしており、国が外国に乗っ取られるとイスラム保守派層に訴える。無神論を基本とする中国共産党と、唯一神への信仰を国家原則とするインドネシアは、本来相容れない存在である。もし次の選挙で政権交代が実現した場合、高速鉄道事業が再び白紙撤回になる可能性も大いにある。

ただ、そうなったとしても、日本に分が回ってくるという意味ではないということは付け加えておく。外国排除の風潮の中では、日本も中国も同じ立場だ。そして、高速鉄道プロジェクトには超低金利の借款ですら受け入れないという姿勢に変わりはない。官民パートナーシップの名のもとに表向きは国費を投入しないのだ。「表向き」というのは、KCICに出資するコンソーシアムに含まれるインドネシア企業はいずれも国営企業省の管轄下にあり、万一の場合は間接的に国費を投入できるという意味合いである。

もっとも、在来線でも3時間、高速化を図れば2時間半程度で結べると思われるジャカルタ―バンドン間に、新たに巨費を投じて高速鉄道を建設するのはあまりにも不経済であり、国費を投じるくらいなら凍結する公算が高い。逆に言えば、政府保証なしという条件を突きつけ、とりあえず中国にやらせてみるという手法は、ある意味で理にかなっていた。

非難だけでは何も変わらない

インドネシア政府が急転直下、かつ正当なプロセスを踏まずに中国案を採用したのは不誠実の極みであり、糾弾されるべきものである。だが、非難だけして目を背けていては、それこそ中国の思うつぼだ。

インドネシアに初めて来る出張者が空港に着いてまず驚くのは、道路を埋め尽くす圧倒的多数の日本車である。数十万カ所にも及ぶモスク(イスラム祈祷所)のスピーカーや各家庭の給水ポンプも大半が日本製品であり、日本ブランドの浸透度は世界有数である。それは、戦後いち早くインドネシアを戦略的パートナーとして認め、技術移転、現地生産を進めた先人たちの先見の明によるもので、世界でも稀に見る良好な関係を築いてきたと言われる。

高速鉄道事業が両国関係に暗い影を落としたのは事実であるが、このような事案はどこにでも起こりえるものであり、これを教訓として、来たるプロジェクトに備えなければならない。高速鉄道計画で両国政府が対等な関係に立てていなかったのは事実である。相手国を見下すような言動は言語道断だ。そして、身の丈に合ったプロジェクトを策定できなかった点については反省しなければならないであろう。

今年は日本とインドネシアの国交樹立60周年という記念すべき年である。もう一度両国関係を振り返り、現代的な国際協力のあるべき姿に思いを巡らせれば、意外なヒントが見つかるかもしれない。

高木 聡 アジアン鉄道ライター

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たかぎ さとし / Satoshi Takagi

立教大学観光学部卒。JR線全線完乗後、活動の起点を東南アジアに移す。インドネシア在住。鉄道誌『鉄道ファン』での記事執筆、「ジャカルタの205系」「ジャカルタの東京地下鉄関連の車両」など。JABODETABEK COMMUTERS NEWS管理人。

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