ついに着工「インドネシア高速鉄道」最新事情 沿線に立ち並ぶ中国語の旗、開業は2024年?

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では、このタイミングでの着工、そして2024年開業予定というスケジュールは何を意味するのか。まずは着工に至るまでの紆余曲折の流れを振り返ってみよう。

高速鉄道計画はユドヨノ前大統領の政権下から、日本の手により事業化調査が進められてきた。ところが、2014年7月の大統領選挙で、ジョコ・ウィドド(ジョコウィ)氏が当選したことで事態は一転。ジャワ島外のインフラ開発重視を掲げるジョコウィ大統領は就任後、もはや着工直前と見られていた高速鉄道計画を凍結した。

同氏はかつてジャカルタ州知事就任時にも、日本の円借款により進められていたジャカルタMRT南北線事業をいったん棚上げにしている。このため、高速鉄道計画の凍結も一種の政策パフォーマンスかのように見えたが、現実には違った。その裏で中国と高速鉄道建設に関わる覚書を結んでいたのだ。2015年3月のことである。この時点で日本は梯子を外されていたわけだ。ただ、そのまま中国と契約を結ぶわけにはいかず、国際入札という形で日本と中国の一騎打ちとなった。

2015年8月に開かれた中国主催の高速鉄道紹介イベント(筆者撮影)

だが、その先も不可解な動きが多々あった。入札結果の公示は延期が続き、遅くとも8月17日の独立記念日(折しも独立70周年であった)には発表かと思われたが、それにも間に合わなかった。そして最後に導き出された答えは、事業計画の白紙撤回であった。

実はこの直前にゴーベル商業相(現・日本担当特命大使、日本インドネシア友好協会理事長)が来日し、日本の新幹線導入に向け関係各所を訪問していたが、帰国後に大臣から外されている。

白紙撤回が一転、中国受注

もともとの事業計画から見ると、入札額は日本のほうがわずかに下回っていたと思われる。一方の中国案は工期の短さと費用負担の面で有利であった。あくまで筆者の推測に過ぎないが、インドネシア側は金額・工期・費用負担等すべてにおいて中国案が優位になると踏んでいたものの、日本側もわずかに優位な条件を出してきたことから政府内で答えが導き出せず、妥協案としての白紙撤回に至ったのではないだろうか。

高速道路わきにある「KCIC」のロゴ(左上)が入った高速鉄道の看板(筆者撮影)

結局、インドネシア側はお茶を濁すかの如く、規格を「中速鉄道」に切り替えた。だが、高速鉄道の白紙撤回からわずか1カ月、リニ国営企業相の訪中を経て9月末には中国による受注が確定した。中国企業とインドネシア企業の合弁で設立された会社はKereta Cepat Indonesia China(KCIC)、すなわち「インドネシア中国高速鉄道」。中速鉄道ではなく、最高時速350kmでジャカルタ―バンドンを結ぶ、れっきとした高速鉄道が建設されることになった。

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