(第20回)産学連携を利用した「人材育成・人材交流・人材確保」活動を問題提起と考える

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●利害が一致した産学連携のカタチ

 倫理憲章問題で焦点になるのはいつの時代も「採用の早期化」だ。そして、その対象は理系の学生、なかでも機械・電気・電子系の学生が特に顕著である。これらの学生はまず絶対数が多くないうえに、業種にかかわらず採用ニーズがある。また、電気業界や自動車業界といった学生の本命業界が大規模採用を展開するため、食品・化学・機械といった業界が学生の就職目線を振り返らせるのにあの手この手を尽くしている。

 例えば、業者が主催する合同説明会からしてすでに機電系のみ集客対象にしているものが少なくない。また、入社案内などのパンフレット、工場や研究所の見学会も機電系専用の冠が付くものだけは珍しくない。こういった施策が年内~年明けにかけて、倫理憲章に縛られながらも他社の動向を横目に見つつ、毎年のように開催される。そういった各種活動の早期化が「学事日程の障害になることはけしからん」と難関大学の理工系教授の逆鱗に触れやすい。そこで“先進的企業”は学事日程の障害にならないように産学連携の枠組みの中に採用選考活動の一部として、人材の育成の強化や人材交流を持ってきた。つまり、一部の企業と大学の利害が一致する部分を現在の産学連携に見出そうとしているわけだ。

●慶應大学とSONYの連携は新しい産学連携のインパクトになるか

 11月4日、慶應大学とソニーが新しい形の産学協働として、次世代を牽引する技術系人材の育成強化を目的に、人材交流や共同研究などに中長期的に取り組んでいくことで合意したと発表した。この強力タッグの形成を倫理憲章や少子化、理系人材の不足、学生の二極化といった、採用を取り巻く多くの課題とあわせて見れば、形を変えた人材の囲い込みの流れは大学側もむしろ歓迎の方向性にあると推測できる。
 このような取り組みは、倫理憲章を乗り越えて「互いにじっくり知り合うことができる時間をどうすればつくれるか」というテーマについて、単に選考の「スケジュール面」や「選考」という言葉の定義にとどまらない取り組みや議論が必要であるのでは、という問題提起の側面もある。今回の慶應とソニーからの発表は、日本経団連と国立大学協会という団体同士のやり取りでは様々な利害が衝突し合い、一向に煮詰まらない部分に対して問題提起された、優秀な人材調達戦略に関する産学の取り組みとして捉える必要がある。

  このような取り組みは、光学の体系的な教育の場がなかったことに危機感を感じたキヤノンが光学拠点を置く宇都宮で、宇都宮大学に光学技術者の育成、先端光学技術の研究を行なうことを目的に「オプティクス教育研究センター」を設立、エース級の社員を講師として送り出していることにも表れている。この記事を紹介したニューヨークタイムスには、そこに通う学生自身の「僕らは絶滅危惧種」との声を紹介。一方、「僕らは仕事を探さなくてもいいんです。仕事が向こうからやってきますから」と、売り手市場ぶりが強調されてもいる。

 また、ダイハツ工業も国内3カ所目となる開発拠点を九州としたことについて、「大学や研究機関が集積する福岡市に設置した方が、人材確保の面で優位と判断した」と公式声明を出している。福岡県庁で会見した東迫旦洋ダイハツ九州株式会社社長(当時、現会長)は「福岡市は工学部の学生数が多く、新卒やUターン希望者の受け皿として最適で、九州大学との産学連携も期待できる。自前の拠点を持つことで開発の効率化や製造期間の短縮も図れる」と述べた。

 その他にも、塩野義製薬と北海道大学は平成14年度からともに取り組んでいる糖鎖での共同研究等をさらに促進拡大することを目的に、北大が所有する土地に同社所有の研究施設の建設と共同使用に関する文書を締結。平成20年4月からの運用開始を予定している。ちなみに土地の賃貸等については、期間20年の事業用定期借地権契約による有償貸与、建物は期間満了後に北大に無償譲渡される契約となっている。
採用プロドットコム株式会社
(本社:東京千代田区、代表取締役:寺澤康介)
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