巨大新工場に逆風、揺れる液晶シャープ

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誤算は、パネル需要の冷え込みだ。薄型テレビ市場の拡大で、大型液晶パネルは昨年前半から引く手あまたの状況が続き、シャープも外販を大きく伸ばす計画だった。ところが、今年半ばから状況は一変。世界的な景気後退で、テレビメーカーが一斉にパネル調達量を減らし始めた結果、現在のパネル業界は歴史的な供給過剰に陥っている。

となれば、パネルを内製するシャープにとって、自社の液晶テレビ販売がより重要な意味を持つ。だが、そのテレビ販売も力強さを欠く。ブランド・販売力が弱い海外、なかでも世界2大市場をなす欧米での苦戦が理由だ。欧州市場では確固たる足場を築けておらず、重点市場である北米も寡占化を進めるサムスンにシェアを奪われ、北米・薄型テレビ市場でシャープの占有率は5%前後まで低下。市場規模の大きな北米でさらに地盤を失えば、「堺どころか、(既存の)亀山工場の操業度も維持できなくなる」(同社関係者)。冒頭で触れた格安テレビの登場は、そうした危機感の現れだろう。

パートナーのソニー 出資比率見直しも

さらに、新工場の「頼もしいパートナー」になるはずのソニーが置かれた状況も激変した。景気悪化と急激な円高で、同社は10月下旬に業績見通しを大幅に下方修正。今年度の営業利益は前年の半分以下に落ち込む見通しで、薄型テレビ販売計画も当初の1700万台から100万台引き下げた。業績悪化を受け、ソニーは赤字が続くテレビ事業などのリストラ計画策定に着手。本来なら9月末までに予定していた堺新工場の正式な合弁調印は、10月末時点でも実現に至っていない。

2月末の基本合意に沿えば、ソニーの堺工場への出資額は1000億円前後。現時点でソニーは「合弁契約締結の方針自体に変更はない」(原直史・業務執行役員)と説明するが、業況が悪化する中での大型投資には社内でも慎重論が強まっている。

仮にソニーが出資比率の大幅な引き下げに動くと、シャープにとっては一大事だ。パネルのような装置産業は、最新鋭設備で工場をフルに動かせば劇的なコストダウン効果が出る反面、低稼働率下では重い固定費負担に苦しむ羽目になる。当てにしていたソニーのパネル購入量まで減る事態になれば、堺工場は巨大な生産設備を持て余し、投資回収シナリオは根底から崩れかねない。

「今みたいな異常な経済環境がずっと続くわけじゃない。堺(工場)は予定どおりに進める」。10月末の中間決算会見の席上、片山社長は毅然とした表情で答えた。だが、同社の液晶事業と新工場を取り巻く情勢は厳しさを増している。環境急変による大逆風を乗り切れるのか。まさに液晶シャープの正念場である。


(渡辺清治 =週刊東洋経済)
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