70歳まで働きたくない人の「地道な貯金法」 65歳定年制到来、スパッと仕事をやめるには?

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そこで、今度は足元での家計を見てみます。Aさんは実家暮らしですから家賃の負担はありません。しかし、母親を受取人として生命保険に加入していました。亡くなったお父さんは自営業だったそうで、お母さんには夫の遺族厚生年金はありません。自分の年金だけで暮らしています。

一方でお母さんは「Aさんが万が一先に亡くなったら、生活が厳しいのではないか」と心配、生命保険に加入したそうです。しかしAさんが万が一先に亡くなると、同居のお母さんにはAさんの遺族厚生年金が支給されます。実は、生命保険は必要なさそうです。

さらにAさんご自身の病気に対する不安もあるとのことです。なので、Aさんはいくつか医療保険にも加入していました。しかし会社の組合健保には付加給付があり、実際の医療費の自己負担は1カ月当たり2万5000円が上限であることや傷病手当金のご説明をし、最小限のものに見直すことにしました。

さらに、今まで意識せずに飲み食いに使っていたお金も見直しました。すると「少し節約に気をつける」だけで「2万円は浮きそう」というので、それらはすべてネット銀行の定期預金を利用して貯蓄に回すことにしました。

会社の確定拠出年金は、100%定期預金で運用していたので、今後の掛け金から投資信託に振り向けることにしました。マッチング拠出枠があるので、そこも最大限活用します。Aさんの会社では60歳になると確定拠出年金の加入資格を失うのですが、iDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金拠出が65歳まで引き上げられるという案も出ているので、様子を見ながら考えることにしました。

ここで「何歳まで働かなければならないのか?」の本題に戻ります。働きたくない理由があるのかとAさんに改めて聞いてみました。するとAさんは「ずっと同じ会社で働いており、自分に特別なスキルがあると思えないし、能力にも自信がない。今は一応役職もあるが、定年以降嘱託という形で職場に残ると給与は減るし仕事が変わるし、うまく立ち回れるだろうかと思うと気が進まない」と言います。

自分自身で会社員生活の卒業時期を決める

それでも、60歳からの5年間については、給与とこれからの貯蓄で十分生活ができること、65歳以降は企業年金と公的年金でやりくりできそうなことがわかって、最後にこう言いました。「実は専門職というのがあって、そこだと今の職場より自分に合っているし、ストレスを感じずに定年以降も働けそうな気がします。『65歳まで働けばよい』というゴールが見えたので、自分に合った職場でしっかり頑張ろうと思えるようになりました」。

60歳定年が世の中の都合で強制的に65歳、70歳と引き上げられ、なんだかやる気が起きないと思っていたAさんですが、自分自身で会社員生活の卒業時期を決めることができ、すっきりしたようです。特別なスキルや能力がないというのは謙遜で、ぜひこれまでの自分に自信を持ってこれからの自分に勇気を持って人生を楽しんでいただきたいと思いました。

Aさんのように「いつまで働けばいいのか」とため息をついている方も少なくありません。まずは退職金、企業年金、公的年金の情報を持ち寄り、60歳以降のキャッシュフローを整理してみることから始めてみてはいかがでしょう? ご自身で働き方を決めることができると、仕事へのモチベーションも変わります。今回の記事が少しでも皆さんのこれからの暮らしにお役に立てれば幸いです。

山中 伸枝 ファイナンシャルプランナー、FP相談ねっと代表

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やまなか のぶえ / Nobue Yamanaka

FP相談ねっと代表。一般社団法人公的保険アドバイザー協会理事。アメリカ・オハイオ州立大学ビジネス学部卒業。「楽しい・分かりやすい・やる気になる」ビジネスパーソンのためのライフプラン相談、講演を数多く手掛ける。大手新聞社主催のiDeCo(個人型確定拠出年金)やNISAセミナーの講師など登壇も多数。金融庁のサイトで、有識者コラムを連載。著書に『「なんとかなる」ではどうにもならない 定年後のお金の教科書』(インプレス)、『ど素人が始めるiDeCo(個人型確定拠出年金)の本』(翔泳社)、『100人以下の会社のためのiDeCo&企業型DC楽々活用法』(日本法令)ほか。公式サイト

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