新幹線が「逆風」になった津軽と北海道の交流 元特急停車駅・蟹田、「風の町」は復活するか

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一方の恩恵は、まだ目に見えにくい様子だ。在来線の利便性低下が、鉄道ファンの周遊性低下を招いている、という推測もある。

特急が姿を消した蟹田駅=2018年8月(筆者撮影)

沿線の人口減少や高齢化に伴い、北海道新幹線の開業前から、津軽線の利用者はじりじり減少していた。そこで、地域のイベントや祭りに合わせて、津軽線の利用促進と沿線の活性化の方策を探ろうと、JR東日本の青森運輸区職員らが5年ほど前、自治体と協力して「ガニ線プロジェクト」を立ち上げた。

その成果の一端として、2017年からは、町が毎年8月に開いているマラソン大会に合わせて臨時列車が運行するようになった。「1つの町のマラソン大会のために、臨時列車が走行するのは珍しい、と、その臨時列車が目当てで来訪した鉄道ファンもいた」と阿部課長。「1時間待っても乗りたい列車づくりを目指したい」「サイクルトレインや自転車愛好家との連携に活路を見いだせないか」。阿部課長らは思いをめぐらす。

北海道新幹線の通勤利用も

北海道新幹線開業がもたらした変化は、今別町でもいくつか耳にした。先にこの連載「若者を惹きつける『日本一小さい新幹線の町』」で紹介したように、今別町は県内で最も人口減少と高齢化が激しく、2018年6月現在の人口は約2700人、高齢化率は52%に達する。

それでも、町に伝わる伝統芸能「荒馬踊り」を伝承しようと、夏には全国から多数の若者が訪れるなど、町の姿は人口減少社会の将来像にいくつものヒントを投げかけてくる。

今回の訪問で、青森市から町の診療所に通う医療スタッフの1人が、冬季限定ながら、新幹線通勤に移行したという話を聞いた。北海道新幹線が地域の持続可能性を直接、左右し始めている形だ。

8月上旬の「荒馬まつり」には今年も全国から200人以上の若者が集まったほか、青函トンネル開通30周年を記念してJR北海道がイベントウォーク「ヘルシーウォーキング」を開催、130人ほどが参加して、例年以上のにぎわいがあったという。

奥津軽いまべつ駅を通過するH5系と貨物列車用線路(中央)、津軽線(左)=2018年8月(筆者撮影)

奥津軽いまべつ駅は1日平均乗車人員が60人という“最少の新幹線駅”ながら、「この日は午前10時台、はやぶさ1号、16号合わせて約130人もの乗降があった」と町役場の岩渕健企画財政課長は感慨深げに振り返る。

奥津軽いまべつ駅の石沢透駅長は、駅に駐車している車の動向から「駅利用者の複雑な動きや、津軽半島と北海道のつながりが感じ取れる」と証言する。

開業1年目のデータによると、地元以外で駅に車を駐めている人は、奥津軽いまべつ駅から津軽山地を越えた中泊町・五所川原市が半数、外ヶ浜町の蟹田地区と三厩地区が各2割、そして残る1割は県外ナンバーだったという。「県外からやってきて、車で本州北端まで走り、さらに北海道新幹線で木古内まで、あるいは新函館北斗まで往復している人が一定程度いるようです」。

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