少子化を止める「優先順位の高い改革」とは? コマツ・坂根相談役インタビュー<前編>

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坂根:長野もそうですが、富山の石井隆一(たかかず)知事も頑張っておられます。少子化についての話に戻しますと、長野も石川同様に交通の便がよくなったので、東京に若い人が出ていってしまっていますが、長野のセイコーエプソンでも社内で少子化に関する数字を調べてみれば、コマツと同じような女性社員の結婚率だとか子どもの数といったデータが出てくるはずです。

私が経団連副会長時代の5~6年前にコマツのデータ(結婚率と出生率)を紹介したことがあります。その後、どこかが「私のところも調べてみたよ」と言ってくれるのを楽しみにしていましたが、まったく反応がありませんでした。ある人に「なぜ自社のデータを調べてみようという気持ちにならないのか」と聞くと、「プライバシーにかかわることなので」という始末なのです。この国の最も深刻な課題の少子化について、なぜ自社の社員の全体データを取ることがプライバシーに抵触するのでしょうか。

地元密着型企業のトヨタグループに期待

中原:私が大企業の経営者と話をするたびに実感しているのが、大企業に勤める女性の結婚率の低さです。経営者は正確なデータを取っていなくても、感覚的にはわかっているのだと思います。

少子化の現状をより正確に把握するためには、大企業に勤務する女性の結婚率を集計し、そのデータを根拠として少子化対策に活用するのが賢明だと思います。企業側が個人情報の関係でできないという言い訳をするのであれば、法令を改正してでも足らないデータを集めて可視化する訴求性が高まっているのでしょうね。

坂根:日本の企業でいちばん影響力を持っているのは、なんといってもトヨタ自動車です。トヨタはコマツ以上に愛知県の地元密着型で従業員も多く、3世代が近くに住んでいるはずです。おそらく調べたら私が期待しているようなデータが出てくるのではないでしょうか。

中原:確かに、坂根さんがおっしゃることは直感的に理解できます。都道府県の人口が多い順に2017年の出生率を並べてみてみると、東京1.21、神奈川1.34、大阪1.35、愛知1.54、埼玉1.36となりますが、愛知の出生率が突出して高いのはやはりトヨタやトヨタ関連企業が県全体の出生率を大幅に引き上げているのでしょう。

(後編に続く。後編は9月12日に配信の予定です)

中原 圭介 経営コンサルタント、経済アナリスト

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なかはら けいすけ / Keisuke Nakahara

経営・金融のコンサルティング会社「アセットベストパートナーズ株式会社」の経営アドバイザー・経済アナリストとして活動。「総合科学研究機構」の特任研究員も兼ねる。企業・金融機関への助言・提案を行う傍ら、執筆・セミナーなどで経営教育・経済教育の普及に努めている。経済や経営だけでなく、歴史や哲学、自然科学など、幅広い視点から経済や消費の動向を分析しており、その予測の正確さには定評がある。「もっとも予測が当たる経済アナリスト」として評価が高く、ファンも多い。
主な著書に『AI×人口減少』『これから日本で起こること』(ともに東洋経済新報社)、『日本の国難』『お金の神様』(ともに講談社)、『ビジネスで使える経済予測入門』『シェール革命後の世界勢力図』(ともにダイヤモンド社)などがある。東洋経済オンラインで『中原圭介の未来予想図』、マネー現代で『経済ニュースの正しい読み方』、ヤフーで『経済の視点から日本の将来を考える』を好評連載中。公式サイトはこちら

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