「健康スコアリング」が問う、社員の心と身体 従業員が不健康だと会社の負担も大きくなる

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さらに加入者の予防・健康づくりを効果的に実施するためには、企業と保険者(保険の運営主体)が連携し、一体となって取り組みを進めること(コラボヘルス)が重要だとした。「未来投資戦略2017」(2017年6月閣議決定)において「保険者のデータヘルスを強化し、企業の健康経営との連携(コラボヘルス)を推進するため、厚生労働省と日本健康会議が連携して、各保険者の加入者の健康状態や健康への投資状況等をスコアリングし経営者に通知する取組を、来年度から開始する」と記された。

これが8月の健康スコアリングレポートの送付を意味していた。

今後は「未来投資戦略2018」(2018年6月閣議決定)において、経営者に通知する健康スコアリングを、2020年度以降は事業主単位で実施すると決めた。今年送付された健康スコアリングレポートは健保組合単位である。1社だけで組織されている健保組合なら、自社の従業員のみの数値がその経営者に通知されることになるが、親会社と複数の関連会社など企業グループで組織された組合や、同じ業種や同じ地域の会社が集まって組織された組合だと、自社の従業員だけでなく、同じ健保組合に入っている他社の従業員の分も含む数値になっている。だから2020年度以降は、健康スコアリングレポートの通知を事業主単位とし、個社ごとに従業員等の健康状態を経営者(事業主)に見てもらえるようにする。

健康スコアリングレポートには、従業員全体の健康状態として、肥満リスクや血糖リスク、肝機能リスクなど、生活習慣病予防がどの程度必要かを把握できるような指標が示されている。また従業員全体の喫煙習慣リスクや飲酒習慣リスク、運動習慣の有無など、生活習慣が適正でない者がどの程度いるかの把握や、睡眠習慣リスクなど、従業員の体調を見極めることに資する指標も載せられている。

”健康経営”をする経営者が評価される時代

こうした指標を把握したうえで予防に努めることによって、医療費が高くつく重病になりにくくできる。それによって、従業員の健康寿命を延ばすだけでなく、従業員本人とともに企業も事業主負担分として、払う医療保険料がより少なくて済むようになり、人件費に含まれる事業主負担保険料の抑制を通じて収益改善に貢献できる。

健康スコアリングレポートはこれまで希薄になりがちだった経営者と(自社の従業員が加入する)健保組合との間のコミュニケーションツールとなることが期待される。人手不足でもあり、従業員の健康に配慮する”健康経営”をする経営者が評価されるご時世だ。

とはいえ、健康スコアリングレポートがなければ、経営者が直接的に従業員の健康状態を把握するのは容易でなかった。健康スコアリングレポートを起点にして、社内での予防や健康づくりに対する問題意識の共有を図り、経営組織の適正化や活性化につなげられるとよいだろう。それは社内の働き方改革にも間接的にかかわってくるものでもある。

もちろん、健康スコアリングレポートを経営者に送付するだけで、おのずとわが国の国民の健康状態が総じてよくなると約束されるわけでない。健康スコアリングレポートが、経営者のみならず従業員も交えた社内全体での取組みに活用されて初めて、レポート発行の効果が出てくるといえよう。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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