「万引き家族」が中国の若者も魅了したワケ 9日間で実写邦画歴代1位の興行収入を達成

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しかし、彼らはSNSで見せている余裕を、現実的に持っているとは限らない。地方から都市部、大都市部に進学、就職し、学生や普通のOLやサラリーマンをしている。いわば、最も「大衆」的といえる人たちである。

お金持ちや超優秀な中国人でなければ、眼の前の生活だけで精一杯であり、理不尽なこともたくさん経験しているだろう。「たったいま大家に、来週までに引っ越しをしなさいと言われた。これも人生、ははは」と本文と関係ない文青風の自撮り写真を投稿。

「戸籍がないと何もできない。出産できるかな? その前に結婚も怖い。孤独のまましかない」「コネも金も頭もない。一生、このままでいいかな」とつぶやく。つまり、最も普通の彼らは、日本より社会格差が大きい社会で、さまざまな大変なことを経験している。

それへの反抗でもあるが、大金持ちのような豪華で派手な生活がどうせできないとわかったので、その逆を追求するようになり、その1つが、日本のモノとコトにたどり着いたのである。

ブランド品を多くは買えないので、1つだけを持ってさり気なく写真に入れる。もしくは「ブランド品なんてダサい。私はMUJI派だ。シンプルな色とデザインのほうがセンスよく見えない?」と投稿する。

彼らは、超高級ホテル並みの宿泊料金のMUJIホテルに宿泊はできないが、頑張ってホテル内レストランで食事を食べて写真をたくさん撮る。中国で人気を博す成功学、出世学の啓発本に疲れ、村上春樹の世界と“東野圭吾ミステリーズ”に没頭する。

中国人の若者にとって今も日本は憧れ

ドラマや映画もそうだ。歴史をベースにしたファンタジーの中国映画、現代劇でも全員お金持ちで自分自身の世界とあまりにもかけ離れた中国のドラマより、ディテールまで配慮し、普段の生活、普通の人を描写する日本ドラマ・映画に魅了される。

日本の商品も文化も、基本的に「1億中流」向けの産物であり、暮らし感があふれているといえよう。

大金持ちになれず、普通の生活を求めている中国人の若者にとって、日本はまさに自分の「憧れ」だ。日本では想像しにくいほどの激しい競争を日々行い、普通になるためにも尋常ではない苦労をしないといけないし、理不尽なこともたくさんある。

日本のアニメ、映画とドラマは、「白湯みたいに普通だが、その普通がいちばんいい」と文芸青年たちは口をそろえて言う。マスコミでよく描写される大衆的な価値観から逃げて「小衆」の文芸青年に変身したが、人数が多い彼らはまた「大衆」になり、日本の小説も今回の映画も中国で人気を博することに大きく貢献したのだ。

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