トルコリラ暴落後の「大惨事」はありえるのか 危険を知らせる市場のカナリアかもしれない

拡大
縮小

①ドルの独歩高で膨らむ新興国の対外債務

今回の通貨ショックの特徴の1つは、安全通貨と呼ばれる日本円やスイスフランが買われなかったことだ。米ドルの独歩高と言っていい。

なぜなら、米ドルが今後少なくとも年2回、来年の春までに最大4回の利上げがあるかもしれないという状況があるからだ。トランプ米大統領は、盛んにTwitterで「(金利引上げは)気に入らない」とつぶやいているが、少なくとも年内2回の金利引き上げを市場は織り込んでいる。つまり、米ドルの先高観が強すぎるため、今回のような通貨危機が起きても円やスイスフランは買われなかった。

すべての通貨に対してドルが高くなっている

経常赤字も、貿易赤字も一向に減っていないアメリカの通貨が、目先の金利先高観で吊り上げられている状況は、世界経済にとってはあまり好ましいものではない。それでも、アメリカ経済は好調で金利が引き上げられて、株価も上昇。すべての通貨に対してドルが高くなっている。

そんな状況の中で、トルコの対外債務は急速に膨れ上がっており、2017年の統計でトルコの対外債務は約4500億ドル(50兆円)。この金額は外貨準備高の約4倍に相当する。

トルコの対外債務が急拡大した背景には、トルコ経済の悪化というよりも、高いインフレに中央銀行が適切な対応をしてこなかったという事情がある。

加えて、シリア難民の存在も忘れてはならない。難民がEUに流れ込むのを、トルコ国内への莫大な投資と引き換えに、難民をトルコに留めてきた。

むろん、新興国の対外債務はトルコだけではない。インドネシアは約3500億ドル、アルゼンチンも2300億ドルに達する。

② 欧州銀行システムのリスク上昇

今回のトルコショックで最初に注目されたのが、欧州の銀行システムだ。とりわけ、スペインの銀行は多額のトルコ向け債権を抱えており、スペインのビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア(BBVA)株は最大15%、イタリアのウニクレディト(UCG)株も15%も下げた。ECB(欧州中央銀行)は、ここにBNPパリバを加えて、これら3行を注視していると指摘している。

実際に、BIS(国際決済銀行)によると、2018年3月末時点でスペインの銀行が抱えるトルコ向け債権は約809億ドル(約9兆円)、フランスが351億ドル(3兆8000億円)、イタリア185億ドル(2兆円)となっている。

前述したように、トルコの対外債務が急速に拡大した背景にはシリア難民の存在と大きなかかわりがある。今後、トルコ経済が破綻すれば、トルコにとどまっている難民の多くが再びEUに流れ込む可能性が高まってくる。

③量的緩和縮小、金利上昇が招いた流動性の減少

トルコリラが暴落した直接の原因は、米ドルの独歩高であり、それが新興国のドル建て対外債務を悪化させた。ドル建て債務の急増が通貨危機をもたらした直接の原因と言っていい。

だが、もう1つ間接的な理由として、米国FRB(連邦準備制度理事会)の金利引上げや、ECBによる量的緩和の縮小(テーパリング)といった金融政策の転換が挙げられる。とりわけ、FRBが進行させているバランスシートの縮小、そしてECBが年内までに完成させると宣言するテーパリングは、世界の金融市場の流動性を大きく低下させるはずだ。

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