安倍首相はもう総裁選後の「改憲発議」へ邁進 各党も石破氏との「憲法論争」に注目するが

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首相が2017年5月3日の憲法記念日に、読売新聞の独占インタビューという形で突然打ち出したのが「安倍改憲」だ。「憲法9条に自衛隊の位置づけを示す条項を加える」というのが柱で、首相は「東京五輪・パラリンピックが開催される2020年には施行したい」と改正憲法施行の「期限」にまで言及していた。

首相にとって改憲実現は「政治家としての悲願」だ。しかし、第2次安倍政権発足以降も自民党内での議論は遅々として進まず、衆参両院憲法審査会も休眠状態が続いていたため、「業を煮やして、自ら改憲案を提起した」(首相側近)ものだ。しかし、いわゆる「もり・かけ疑惑」による国会紛糾の最中で、野党だけでなく与党内からも批判が相次いだため、首相はその後の国会答弁などで「憲法改正は国会と国民が決めること」「スケジュールありきではない」とトーンダウンした。

「安倍改憲」に対する自民党内での反発は、党内論議を積み重ねて2012年にまとめた「自民党改憲草案」では、9条2項の「戦力不保持」を見直して「国防軍創設」を盛り込んだのに、「首相(総裁)が独断で内容を変えた」ことが原因だ。その後、首相の意向を踏まえた党執行部が、今年3月の定期党大会で「安倍改憲」を自民党の素案とすることで了承を取り付けたが、国会に提出する改憲条文案決定にまでは踏み込めなかった。このため首相は、「9条改憲」を総裁選の争点とすることで、党内論議に決着をつける戦略に出たとみられる。

石破氏の「9条2項削除」は改憲タカ派に見える

首相から改憲論争を挑まれた形の石破氏は、10日の総裁選出馬表明以降も「9条2項削除」「国防軍創設」を軸とする持論を改めて展開し、「主権者の深い理解を得る最大限の努力が必要だ」として"見切り発車"となるような国会での改憲発議を「ありえない」と批判している。ただ、「9条解釈での論理的整合性」を重視して9条2項削除を求める石破氏のほうが、「首相より“改憲タカ派”に見える」(自民幹部)のも事実だ。

戦後に現行憲法が施行されて以来、一度も改正されていないのは「世界に類のない平和憲法として国民の間に定着し、改憲がタブー視されてきた」(自民長老)という背景がある。しかも、改憲発議には衆参3分の2以上の賛成が必要で、野党の理解と協力も必要とされてきた。だからこそ首相は、9条改憲に慎重な公明党を含め、他党の理解を得やすいことを理由に、「9条1、2項維持での自衛隊明記」という妥協案による改憲実現を狙うことにしたとみられている。

石破氏は「普通の法律ならいいが、国のあり方を決める憲法を改正するときに妥協やごまかしは許されない」と主張している。これに対し、首相サイドは「石破氏の9条2項削除論は国民的支持を得られない」と指摘する。「9条改正に反対する護憲派は石破氏の主張に反発し、改憲派は実現不可能な案を提起するのは護憲派を利するだけと批判する」との判断からだ。石破氏が問題視するのは「何が何でも改憲しようとする首相の政治手法」だが、国民から見れば石破氏の方が強硬派に見えることは間違いない。

首相が狙うのは来年の通常国会での改憲発議だ。来夏の参院選以降は、現状の「参院でも改憲勢力3分の2」を維持することが困難視されているからだ。首相サイドは「来年前半は天皇退位・新天皇即位で新元号への移行という時代の大きな変わり目なので、それに合わせた改憲実現にも必然性がある」(首相周辺)と主張する。

一方、石破氏は「9条改憲」は優先課題とせず、「参院選挙区の合区解消」や「緊急事態条項創設」を当面の改憲条項にすべきだと主張している。各メデイアの世論調査でも「9条改憲」への反対が多いことも踏まえ、「国民の理解を得るためにも説明に時間をかけるべきだ」と首相を牽制しているのだ。

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