「全盲と弱視」それでも彼女が明るく笑うワケ 小2からの寮生活、上京、そして仕事と恋

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少しずつ自立していった松田さんだが、高等部を卒業する直前、厳しい現実に直面する。就職だ。

視覚障害のため情報の吸収量が少なく、勉強が遅れがちだった松田さん。所属していたのは、学力が低いとされるクラス。社会に出た後、就ける仕事は工場での下請け作業などしかなく、月給3万円が当たり前という世界だった。しかも生徒たちは、その状況に疑問すら覚えない人がほとんど。ここから抜け出さなくてはいけない、と松田さんは強く感じるようになった。

「学力や大人の決めた基準で差別されて、本位でないところに行かなくてはならない気持ち悪さ、おかしさを感じていました。私は一般社会のなかで生きたいとすごく思っていたし、自分の本当の力量を図れるところに出たい、と思っていました」

そして松田さんは上京を決意する。静岡は好きだったが、視覚障害者が活躍できるチャンスは少ない。東京なら、1000社を訪ねれば、1社くらい働かせてもらえるかもしれない、という思いがあった。

「座っていることがあなたの仕事」と言われ……

茶目っ気たっぷりのステッカーで飾られたノートPCで作業する松田さん(撮影:尾形文繁)

こうして東京で就職することはできたが、活躍の機会には恵まれなかった。仕事をしたくても「座っていることがあなたの仕事」と何も任されず、ときに「給料泥棒」と言葉を浴びせられたこともあった。

「私の力量が足りなかったと思うんですけど、悔しかったですね。人並みに働いて、役に立った対価としてお給料をいただきたかった。それなのに、座ったままでいいのだろうかと。『こんなこともできます、任せてください』って提案もしたんですけど、実現には結び付かなくて。する仕事がないから、ほったらかしにされていたこともたくさんありました」

会社は戦力として採用したのではなく、障害者を雇用しているという実績が欲しかっただけだったのか、と落胆した。何社か会社を移っても同様だった。もどかしさを抱えるなか、障害や難病を抱えた女性を応援するフリーペーパー「Co-Co Life☆女子部」の制作に、ボランティアとして携わることになった。そこでテープ起こしをしたことが松田さんの運命を変えた。

「言語障害のある方や、複数人の対談の音源をテキスト化していたんです。そうしたら、編集スタッフの間で『昌美ちゃんのテープ起こしはいい!』と広まって。テープ起こしをたくさん抱えてパンクしそうな人がいる、って紹介してくれたんです」

次ページ締め切りに追われる、充実した日々
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