「九条ねぎ」の躍進は1冊の雑誌から始まった 年商10億円を超えた「こと京都」の軌跡

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念願の新社屋兼加工場も完成、売り上げも右肩上がりでしたが、好事魔多し、2011年3月11日に東日本大震災が発生します。新規契約の大型スーパーへの納入は無期延期、関東地区の既取引先も停電の影響で注文が来なくなり、単年度赤字は4300万円に上りました。

悪いことは重なるもので、その年は26年ぶりの厳冬になります。得意先に出荷できない事態になり、翌年1月~4月の第1四半期だけで4600万の赤字を出しました。露地栽培は天候次第。夏場のねぎは病虫害に遭いやすく、猛暑も厳冬も大敵です。まさに自然災害と生鮮の怖さを実感させられた出来事でした。

こうした影響を極力避けるため、京都府内の亀岡市と南丹市美山町でも栽培を始めました。冬から春は京都市内、夏から秋は亀岡と美山で生産する、という産地リレーの考え方です。九条ねぎのカットも、あらゆる分野の要望に応えられる体制を構築しました。ざるそばの薬味や焼き肉などには1ミリ、薄味のラーメンには2ミリ、とんこつラーメンには3ミリ、お好み焼き用には5ミリを提供します。

【7月9日8時35分追記】記事初出時、上記箇所に「南丹波市美山町」との誤記がありましたが、「南丹市美山町」の誤りでしたので訂正します。

また、ねぎ油、ドレッシングなどの加工品も強化し、お天道様次第の生鮮業からの脱皮を図りました。加工品の成否は、信頼のおける一流のお店と組むことに尽きます。「京の九条の葱の油」は京の人気イタリアンリストランテ「イル ギオットーネ」の監修で食用油専門店「山中油店」との共同開発、また「京都九条のねぎ塩ドレッシング」は老舗の丸和油脂との共同開発です。

ブランドが強みを発揮する時代

一方で、九条ねぎブランドが強みを発揮する時代にもなってきました。

以前から取り沙汰されてきた食の安全性が、2007年中国冷凍餃子中毒事件で大きくクローズアップされたのです。2013年には有名ホテルでメニュー表記と異なる食材を使っていた問題も発覚します。こうした混乱の中、「こと京都」は取引先に「産地証明が必要であればお申し出ください」とメール、ファックスを送信。これを契機に全国チェーンの居酒屋やファミリーレストラン、スーパーマーケット、百貨店からの注文が一気に増大しました。

丹精込めて安心安全なモノづくりに励んだ努力、そして京都の伝統野菜九条ねぎのブランド価値。この2つがが大きく花開いたのです。「年商3億円が天井と思っていましたが、ひょっとしたら10億円に手が届くかもしれない」山田社長はそんな予感がした、と言います。その予感は2016年、単体売上高11億6900万円を達成して現実のものとなります。

山田社長がもう一つ力を入れて取り組んでいるのが、九条ねぎ生産者のグループ化です。2009年、九条ねぎを守る「ことねぎ会」を発足させました。気象状況次第で生産量が変化する九条ねぎを安定的に供給するための組織です。最初の会合は十数人。席上、「これからは、生産計画から一緒に考えませんか」と呼びかけました。

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