「不登校」は凶悪犯罪を引き起こしやすいのか 東海道新幹線殺傷事件を考える

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報道にもとづくかぎりでは、新幹線殺傷事件の容疑者は、中学でいじめを受けて不登校をし、家にいるときは食事をつくってもらえなかったそうです。

また、職業訓練校を経て就職した愛媛県の工場でも社内いじめにあい、愛知県の実家へ戻ったものの、「親に殺されるから」という理由で家出をくり返していました。ちなみに、「容疑者の写真は実家にあるか?」と記者から尋ねられた父親は、「今はもうない。捨てた」と答えています。

どこまで正確な報道なのかはわかりませんが、家庭はエネルギーを蓄えられるような場所ではなく、親子のつながりはほとんど断ち切られていたということだけは、たしかなようです。

無差別殺傷は自殺の裏返し

そうであるならば、事件は不登校の延長上に起こったのではなく、人間的なつながりがなくなった先に生じた、自殺の裏返しとしての殺人だと考えられます。

付け加えるなら、今回の事件では、容疑者の有する障害が事件と結びついたかのように受け取られる報道があり、外部からの指摘を受けた結果、報道の一部が削除されているようです。

これまでのように、さんざん煽ったあと、「障害と事件は関係ありません」と、かたちだけ謝罪するのもどうかと思いますが、自主規制する姿勢も、私は好みません。障害を抱えた子どもは、生きにくさも抱えています。彼らに対し、不登校やひきこもりを許さない圧力が加われば、どんなに優しかった子どもでも「危ないこと」を起こすと、あえて言い切るべきでしょう。

(文:shiko)

■執筆者プロフィール
(たかおか・けん)1953年生まれ。精神科医。岐阜県立希望が丘こども医療福祉センター・児童精神科部長。著書に『不登校・ひきこもりを生きる(青灯社)『引きこもりを恐れず』 、(ウェイツ) など多数。

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