ウイダーinゼリーから「ウイダー」が消えた日 急成長する「inゼリー」、販売戦略の大転換

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全社で見ても、2017年度の売上高の増収分55億円のうち、健康部門が8割超を占めた。成長が“ウイダー頼み”になっていたというのが実情だ。

森永では、健康部門に高カカオ(カカオ分70%以上)のチョコレートなど菓子部門の一部商品を加えた商品群の売上高を、2020年度までの3年間で全体の50%以上(現在は42%)にまで押し上げようという目標がある。インゼリーはその牽引役という位置づけだ。

そもそもウイダーは、米アリゾナ州・フェニックスに本社を置く、プロテインやサプリメントなどの販売を手掛ける企業の名前。著名なボディビルダーの故ジョー・ウイダー氏が1936年に創業した。

森永製菓は健康分野の事業に参入するために、1983年にウイダー社と事業提携を開始。同社のブランドを使用したプロテインなど健康・栄養食品の日本での製造・販売権を得た。

当初は、全国各地のボディビルジムやスポーツ店に商品を売り込むなど、一般消費者向けというより、ボディビルダーやアスリートを対象にしたビジネスを展開していた。健康分野の事業でウイダーブランドを使用したのは、「お菓子メーカーのイメージと距離を置くため」(佐藤氏)だったという。

「inゼリー」は森永の独自商品

現在、森永は粉末状のプロテインやサプリメントをウイダーブランドのライセンスで手掛けている。ただ、インゼリーは森永製菓が独自に開発した商品。ウイダー社との交渉の末、ブランドを切り替えることになったという。

取材に対し、交渉の詳細は明らかにしなかったが、「契約上は問題がなくなった」(会社側)。ロゴが外れることで、売上高に対し一定率を払っていたライセンス料の負担もなくなる。

森永製菓本社ビル内にある、50センチほどの高さのインゼリーの販促物。ロゴは森永製菓のエンゼルマークに貼り替えられている(記者撮影)

また、ウイダー社との契約は2030年まで続く一方で、契約が切れたときのリスクを考慮して、早めのブランド切り替えで森永ブランドとして根付かせたいという狙いもありそうだ。

佐藤氏は「商品の認知率はもう9割に近く、スポーツイベントの協賛などで(ウイダーの)ブランドロゴをこれ以上露出しても広告効果としては薄い」と話す。今後も、栄養別の訴求を強化して販売増を狙う計画だ。

これまでは主に20〜40代男性の食事代わりの需要が多かった。だが間口を広げようと、女性誌に鉄分やタンパク質の摂取ができるという広告を載せたり、産婦人科で配布される冊子に、つわりで食欲がないときの栄養補給品として訴求したりしているという。高齢者にも、あまりかまずに摂取できる点をアピールする。

収益性の高まったインゼリーを成長の武器にできるか。

石阪 友貴 東洋経済 記者

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いしざか ともき / Tomoki Ishizaka

早稲田大学政治経済学部卒。2017年に東洋経済新報社入社。食品・飲料業界を担当しジャパニーズウイスキー、加熱式たばこなどを取材。2019年から製薬業界をカバーし「コロナ医療」「製薬大リストラ」「医療テックベンチャー」などの特集を担当。現在は半導体業界を取材中。バイクとボートレース 、深夜ラジオが好き。

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