トヨタ「エスティマ」発売12年でも健闘の理由 そこに唯一無二の存在感が生まれている

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運転席に座ると、ダッシュボードが大胆に湾曲した造形で、どことなく航空機か宇宙船のコクピットに座ったような新感覚があった。従来のワンボックスカーと同様のキャブオーバーという車体構造で、運転席の下にエンジンを搭載するが、そのエンジンは75度も横へ傾けて背を低くすることにより、前席と2列目以降の座席との間に出っ張りのない広々とした室内を実現してみせた。前輪駆動でエンジンを客室の前に搭載する今のミニバンでは当たり前の光景だが、それまでのワンボックスカーとはまったく違う空間を生み出していた。

トヨタが仕掛けた大胆な挑戦

トヨタは一般的に保守的な自動車メーカーと思われがちだが、時に初代エスティマのように大胆な商品価値を打ち出す挑戦をする。エスティマだけのためにエンジンを横に傾けるなど、採算を考えたらまずやらない取り組みだ。たとえほかでも使うエンジンを基本としていたとしても、それを横に寝かせることで冷却からオイル潤滑、エンジン搭載方法まで変わってしまう。それでいて、冷却に怠りなく、潤滑に切れ目なく、騒音・振動を少なく搭載し、故障させず品質保証するためには、かなりの資源の投入が必要だったはずだ。

そこまでの挑戦を実行したことで、室内を広く取り、それまでのワンボックスカーとは比べものにならない室内の静粛性を初代エスティマは実現した。

エスティマ ハイブリッド AERAS PREMIUM-G (E-Four・7人乗り)インテリア(写真:トヨタグローバルニュースルーム)

初代エスティマは消費者の関心を大いに集めたが、道路幅の狭い日本ではこれだけの車体寸法のクルマを多くの人が買えるわけではない。そこで2年後から追加されたのが、5ナンバー枠に入るエスティマ「エミーナ/ルシーダ」であった。初代エスティマの雰囲気を残しながら5ナンバー枠としたが、デザインの縦横比が変わり、調和が崩れ、エスティマ本来の先進的未来感のある独創的な存在感は後退した。それでも待ちかねていた消費者によって販売台数は伸びた。

9年の長寿を全うしたが、改めて当時を振り返ると、初代エスティマの人気はなお続いていたと思う。しかし、衝突安全基準が時代とともに厳しさを増すなか、独創の造形とそれを実現した構造では新たな基準を満たすことが難しくなり、フルモデルチェンジせざるをえなかったと記憶している。

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