「新総裁のゼーリックは世界銀行を救えるか?」ハーバード大学経済学部教授 ケネス・ロゴフ

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ゼーリック新総裁に期待する4つの改革

 最大の問題は、彼が本当に世銀に必要な改革に着手し、やり遂げることができるかどうかである。

 第一の改革は、後任の世銀総裁をアメリカ人から選ばないようにすることである。世銀の姉妹機関であるIMF(国際通貨基金)の歴代専務理事は欧州から選ばれてきたが、ロドリゴ・デ・ラト現専務理事は「後任はもっとオープンな手続きで選ぶべきである」と述べている。世銀総裁が同じような提案を行っていないことを恥じるべきである。

 第二にゼーリックは、ナレッジバンクたる世銀の調査機能拡充のために、予算のわずか2・5%しか支出していない一方で、理事会の維持経費にその3倍もの予算をつぎ込んでいる理由を問うべきである。

 第三にゼーリックは、自慢の交渉力を駆使して、世銀の援助額に占める贈与の割合を大幅に増やすよう、先進諸国を説得すべきである。民間の資本市場の穴を埋めるために政府保証の大銀行が必要だという考え方は、今では噴飯ものである。事実、世銀が援助する最貧国は資本市場で資金を調達できないのである。途上国は、返済に20年もかかる融資ではなく、贈与を必要としているのだ。融資から贈与に切り替えることで、世銀はナレッジバンクの機能を強化することができる。現在、世銀が行う専門的なアドバイスは聞き入れられないことが多いが、世銀の資金を手に入れるためならば耳を傾けるだろう。世銀は単に自分の政策目標を追求するのではなく、専門的なアドバイスを提供すべきなのである。

 最後に世銀は、環境問題への尽力に加えて、先進国と途上国がよき国際市民になることを推進していく必要がある。私たちは、20年にわたってこうしたことを提案してきた。

 もちろんゼーリックも、前任者と同じようにその役割を果たしているふりをするかもしれない。もしくは、可能性は低いが、彼は他の総裁たちと同じように政府の介入に対して誇大妄想的で遠大なビジョンを描くかもしれない。いずれにせよ彼の幸運を祈ろう。世界はマンションやオフィスビルではなく、本当の世銀を必要としているのだから。

(C)Project Syndicate

ケネス・ロゴフ

1953年生まれ。80年マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得。99年よりハーバード大学経済学部教授。国際金融分野の権威。2001~03年までIMFの経済担当顧問兼調査局長を務めた。チェスの天才としても名をはせる。

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