残業はどうしたらなくせるか 毎日18時退社を実現した2人子育てビジネスマン

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 朝6時、2人の子育てに励む「ワーキングファーザー」柴沼俊一さん(35歳)は隣で眠る7歳と4歳の子どもたちを起こさないよう、そっと自宅を出る。駅へ向かう途中のコーヒーショップに立ち寄ると、毎朝お決まりの席に着き、手帳を広げる。ここで、その一日のスケジュールを組むのが柴沼さんの日課だ。「やるべきこと(To Do)」を書き出し、それらを「いつやるのか」決める。働く時間は7時から18時。その時間内にすべてをこなせるよう、それらを「どうやるのか」もその場で考える。6時45分、準備完了。ネクタイを締め直し、店を出て職場に向かう。

柴沼さんはここ2年、証券会社で執行役員を務めながら、残業をいっさいしない生活を続けてきた。日々やるべき仕事の量は膨大だ。が、必ず18時には退社して子どもを保育園に迎えに行き、夜は子どもと過ごす。小学校のPTA役員も務め、学校行事には欠かさず参加する。もちろん、土日は必ず休む。経営大学院で講師のアルバイトをしたり、管理人を務める栃木県那須のキャンプ場で子どもたちと過ごすことも多い。

妻は別の証券会社でバリバリ働くキャリアウーマン。海外とのやり取りも多く、時差の関係で仕事が深夜に及ぶことが多い。夫婦ともキャリアアップをあきらめずに、2人の子どもと過ごす時間も大切にしたい--柴沼さんは、自らの「ライフスタイル改革」に取り組んだ。

足かけ6年 18時退社実現への旅

きっかけは、日本銀行に勤めていた28歳のころに経験した米国留学だった。2年間過ごしたフィラデルフィアで、ビジネスマンは誰もが18時に帰宅して家族との時間を過ごしていた。片や、自分の日本での生活を振り返ると、仕事は毎日深夜にまで及び、会社のために生活しているような日々。彼らはなぜ、18時に帰れるのか。不思議でたまらなかった。

フィラデルフィアで目にした光景は、日本に帰国した後も柴沼さんの心に強く残っていた。ところが、そう簡単にまねできるものではない。自分なりに手早くこなしたつもりでも、上司に提出した書類はダメ出しされて戻ってくる。上司に呼ばれて席を立つと、延々と続く長い話に時間を取られる。重要な案件について考え始めると、結局遅くまでかかってしまう。仕事を中断して出席する会議はだらだらと続く……。残業は減らず、悶々とした日々が続いた。

31歳で柴沼さんは、日本銀行から外資系のコンサルティング会社に転職をする。慣れない仕事と環境に、理想のライフスタイルは一時さらに遠のいたかのように見えたが、実はこの仕事で学んだ問題解決の手法が、ライフスタイル改革を実現させる大きな助けとなった。課題を見極め、それを分解し、優先順位を付ける--。コンサルティングの現場で使うこの考えを、自分の生活に当てはめてみた。

提出した書類はなぜダメ出しされて戻ってくるのか。それは、上司が求める答えを見極めていなかったためだ。たとえ「君に任せるよ」と言われて取り組む仕事でも、上司がなぜその書類を必要としていたのか、その背景には何があったのかを、事前に確認することが必要だった。

重要な案件については慎重に考えなければならず、時間がかかるのは仕方がないと思っていた。が、実はその過程でも、課題の見極めが不十分であったことに気がついた。加えて、こういうものには時間を決めて取り掛かると、意外とその時間内で答えを出そうという気持ちが働くこともわかった。

To Doの書き出しもこのころ始めた。その一日を朝のうちに明確にスケジューリングしておくと、無駄な時間がなくなった。自分がこれまでいかに無駄なところで時間を取っていたかを知り、残業時間は徐々に減っていった。

さらに2年後、証券会社に転職し、出社時間が9時から7時に早まると、柴沼さんは朝の時間がいかに重要かを知る。昼食を食べると途端に人間の頭は弛緩してしまう。その前の数時間が勝負だと実感した。午前中にこなす仕事量がぐんと増え、ようやく18時退社を実現。子育ては、朝が出勤前の妻、夜が柴沼さんと分担できるようになった。

だが、こんな柴沼さんでも子どもに関することは思いどおりにこなせない。2人の話は答えもなく延々と続き、柴沼さんが急いでいようがおかまいなしだ。「以前はいつもここでイライラしてましたが、子どもと過ごすときは特急列車から鈍行列車に乗り換えればいいんです」(柴沼さん)。仕事のうえでも、相手によっては急行電車に乗り換えなくてはいけないこともある。最近はこういう乗り換えもうまくなったと笑う。


(週刊東洋経済)

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