若手を適応障害にする職場で起きていること 「理想と現実のギャップ」とは何なのか

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2000年初頭から取り組みが本格化した「ゆとり教育」。その中核的施策である総合的学習の時間では、あるテーマについてグループで調査研究し、まとめて発表するという授業が多くの小中学校、高校で展開されている。教員から生徒へのタテの学びではなく、生徒同士のヨコの学びの機会が、劇的に増えているのだ。ヨコの学びは、大学でもアクティブ・ラーニング、PBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)などの形で広がっている。「これらの経験が、フラットなヨコのネットワークを駆使し、互いを尊重しながらコミュニティを形成するという、若い人たちのコミュニケーションスタイルにつながっています」(豊田氏)。

タテ社会の秩序に一度も身を置かず社会人になる

読者の中には「いやいや教師と生徒や部活の先輩後輩など、学校にもタテ社会はあったはずだ」と思う方もいるだろう。だがこうしたタテ社会は、20世紀中に弱体化した。教師や親は支援者のような位置づけになり、先輩後輩は友人関係のように変化している。豊田氏は「現代の若手世代には、タテ社会の秩序に一度も身を置かず社会人デビューする人も少なくない」と話す。

豊田義博氏(写真:AERA dot.)

ところが会社に入ってみれば、ヨコ型スタイルを踏みにじるようなタテ型コミュニケーションが支配している。「それまで慣れ親しんでいたヨコのネットワークとまったく異質なタテ社会に、いったいどう参加して自分のキャラを出していいものか、戸惑い立ちすくんでいる。それが職場でネコをかぶる、指示待ちに徹するという姿勢に表れるのでしょう」(豊田氏)

自分が直接見聞する「一次情報」が減り、誰かが調べてまとめた「二次情報」が増えるという職場の変化も、新入・若手社員の適応障害に大きな影響を与えていると豊田氏は指摘する。「パソコンも、メールも、検索エンジンもなかったかつてのオフィスは、一次情報に溢れていました」

顧客から電話がかかってくる。先輩と顧客の会話に耳を澄ませば、「こういう場合はこう話せばいい」とわかる。先輩が上司に、仕事のちょっとした相談をしている。あんな風に立ち話でいいのか。先輩の机の上には書きかけの提案書が置いてある。盗み見て参考にしよう――。こんな調子でかつての職場は、コミュニケーションにあふれ、観察しやすい場だった。「ところが今の連絡手段はメールが主体になり、提案書はパソコンの中です」。

便利の代償として職場の様々な一次情報が消滅し、若手の学習機会を奪っていった。

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