電撃解散説は初夏のつむじ風に終わったのか あっという間の収束になお疑心暗鬼も

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首相が解散に踏み切れない理由は少なくない。まず指摘されるのは「政治・外交日程上、解散のすき間などない」(外務省)という点だ。大型連休前半をイスラエルなど中東各国歴訪にあてた首相は、連休明けの5月第2週(7日~12日)には、懸案だった日中韓首脳会談の東京開催で、初訪日の李克強中国首相と文在寅(ムン・ジェイン)韓国大統領を迎え、北朝鮮非核化問題などでの首脳協議に臨む。さらに、5月下旬には訪ロしてのプーチン大統領との日ロ首脳会談、6月上旬にはカナダでの先進国首脳会議(G7サミット)が控える。

しかも、世界が注視するトランプ米大統領と金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長による米朝首脳会談が5月中にも行われ、同会談の結果次第ではその後に、首相の訪朝による日朝首脳会談も検討されている。まさに、世界の歴史の転換期に、その主要プレイヤーの1人の首相が国益を賭しての首脳外交に全力投球する最中には、「解散による政治空白など、考えられない」(首相経験者)のは明白だ。

「野党統一候補」なら自民大幅議席減も

さらに、解散・総選挙に突入しても、野党が「統一候補」で対抗すれば、「黒い霧解散」の時のように、「自民微減で済む可能性はほとんどない」(自民国対)とされる。昨秋の衆院選も「もし、野党が全国的に統一候補を擁立していたら、自民党は単独過半数ぎりぎりでもおかしくなかった」(選挙専門家)のが実態だ。たまたま小池百合子東京都知事による希望の党結党で、民進党が3分裂していがみ合ったことによる「漁夫の利での自民圧勝」(同)だけに、現在の安倍政権を取り巻く政治状況の悪化を考えれば、「自民単独過半数割れだってありうる」(自民長老)とみる向きは少なくない。

そもそも、首相にとって電撃解散の狙いは「与党の絶対安定多数(261議席)確保」で、総裁3選に灯った黄信号を、再び青信号に変えることだ。もちろん、建前上は「与党で過半数」が政権維持のための勝敗ラインとはなるが、自民党が50議席以上の大幅減となれば、首相の責任論噴出で、逆に3選が困難となる可能性が大きい。

得意の首脳外交で政権を浮揚させたい首相にとって、大型連休後の2か月間はまさに「安倍外交の成果を内外にアピールする絶好のチャンス」でもある。もし、日朝首脳会談が実現し、拉致被害者返還の約束を取り付けられれば、内閣支持率の大幅アップは確実で、一連の疑惑追及などが、メデイア報道の前面から消えるかもしれない。

その一方で、首相が電撃解散で自滅すれば、悲願とする憲法改正による自衛隊明文化も「見果てぬ夢」に終わり、戦後最長と史上最長政権の野望も潰える。まさに「解散できないこれだけの理由」ばかりだ。

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