風俗で18年働く「早稲田卒」41歳母の深い苦悩 息子の学費捻出のため、休みは1日もない

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20代の頃はなにも考えていなかった。30歳のときに就活に失敗して社会に戻れない現実に気づいて、急激に不安になった。祖母のいる実家には居場所はなく、父親も息子も戻ってくることを望んでいない。学生時代は結婚、出産、離婚があったので、学生時代の友達は誰もいない。親戚も近所付き合いもなく、風俗の仕事にしがみつくしかなかった。

「吉原の店で早朝から閉店まで働くようになった。いつまでできる仕事かわからないし、稼げるときに稼がないと不安で仕方がなかった。週の半分は店に泊まるみたいな働き方で1日10本とかの日もあった。本当の肉体労働なので、本当にヘトヘトです。そこまでやるのはおカネに対する執着ですよね。おカネがあれば、不安を消してくれるので」

働いてばかりで恋人はできなかった。離婚から7年後に離婚した元夫から連絡があった。やり直したいと泣きながら言われて、頷いた。

「元旦那は相変わらず働いてなくて、ヒモになりました。ソープで働いていることは当然知っていて、頑張れみたいな感じだった。2年くらい一緒に住んでおカネを盗まれて、追いだして離婚。忘れた頃にまた現れて3回目の再婚したけど、相変わらず働かないのが嫌になって離婚しました。今は福祉に頼ってホームレスの救済施設みたいなところにいるみたいです」

30代後半からは、寂しさ紛れでハマったビジュアルバンドマンに貢いだ。今も心の支えは、ビジュアルバンドマンだという。

精神崩壊させてまで働いてきたが…

18年間。不安から逃げるために、おカネに執着してひたすらカラダを売った。精神崩壊させてまで現在進行形で働き続け、今残っているのは銀行口座に75万円、それに財布に昨日働いた報酬の2万6000円が入っているだけである。

中学から学費を払い続けている息子は、母親と同じく国公立大学医学部を目指したが、失敗が続いた。アイドルオタクになって勉強をしているようには見えなかった。2浪して合格したのは、中堅私大の看護学部だけだった。

「もう、絶望しました。まともに育てることができなくて、息子には申し訳ない気持ちがあって頑張った。償いというか。けど、本人はおカネを払ってくれるおばさんくらいにしか思っていないし。ここまでカラダを張ってきたのに、お前はなにも知らないねって」

父親は期待をして東京に送りだし、高額な仕送りを続けてくれた。それから20年が経って、鶯谷から抜けだせないでいる。精神疾患になりながらカラダを売っておカネを稼ぎ、支援を続けた息子はアイドルオタクになって、母親の苦労をなにも知らないで今日も安穏としている。因果応報だと思った。

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中村 淳彦 ノンフィクションライター

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なかむら あつひこ / Atsuhiko Nakamura

貧困や介護、AV女優や風俗など、社会問題をフィールドワークに取材・執筆を続けるノンフィクションライター。現実を可視化するために、貧困、虐待、精神疾患、借金、自傷、人身売買など、さまざまな過酷な話に、ひたすら耳を傾け続けてつづけている。著書に『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)、『崩壊する介護現場』(ベストセラーズ)、『日本の風俗嬢』(新潮社)、『名前のない女たち』シリーズ(宝島社)など多数。Twitterアカウント「@atu_nakamura」

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