「国民党」旗揚げだが、「俺たちに明日はない」 再分裂を招き、国民の期待を裏切る形に

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そうした中、新党結成を主導した大塚代表は、財務事務次官のセクハラ疑惑や加計学園問題など政府の一連の不祥事を踏まえて、「首相が(自民党総裁選で)3選を目指すなら『やけくそ解散』しかない」と述べ、首相が起死回生策として電撃解散に打って出る可能性に言及した。大塚氏は、自民総裁選で首相が交代した場合も「年内解散や、来夏の参院選との同日選もあり得る」と指摘し「新党をつくるのは、今しかない」と訴えた。

これに対し森山自民国対委員長も25日の自公幹事長会談の後、記者団から野党側が内閣不信任案を提出した場合の対応を聞かれ「衆院解散というのも一つの選択肢だ」と凄みを利かせた。また、安倍首相も同日昼の鈴木宗男元衆院議員との会談で「あらゆる選択肢、行動も頭に取り組む」と露骨に野党をけん制した。もちろん、これは「野党を脅すためのブラフ」(公明党幹部)とみられているが、来年の同日選も含めて早期解散が現実味を帯びてきたことは否定できない。

もし、国政選挙となれば、新党の勢力拡大のカギとなるのは、党首の存在感の大きさだ。大塚、玉木両氏は共同代表制を暫定措置と位置付けているだけに、9月の代表選で誰を党首に選ぶかが党の未来を左右する。ただ、民進、希望の両党内を見渡すと、いわゆる実力者はほとんど新党不参加で、「残るのは知名度も低い小粒な人材ばかり」(民進党幹部)というのが実態だ。

リーダーとしての知名度とそれなりの実績を持つのは、昨秋の衆院選前に、当時の国民的人気を背景に「政権交代」を掲げて「希望の党」を結党し、同党代表として選挙を戦った小池百合子東京都知事だけともいえる。小池氏は25日、自身が立ち上げた希望の党の民進党との合流について「こんな形になるのはとても残念」と述べた。ただ、小池氏の後継代表となった玉木氏は、党特別顧問の小池氏の処遇について「新党ができればまったく関係ない」と"小池氏排除"を明言した。

野党統一候補擁立なら、「国民党」は沈没の危機に

このタイミングで自民党が電撃解散説を流すのは、野党の選挙態勢が整っていないことを見透かしているからだ。立憲民主の辻元国対委員長は「困るのは与党の方では」と強がったが、多弱化が進む野党がバラバラのまま選挙に突入すれば、昨秋の衆院選と同じ結果にもなりかねない。だからこそ、自由党の小沢代表は各野党に対し「共産党も含めての全国での統一候補擁立」を説いているのだ。

しかし、実際に選挙となれば、統一候補をめぐる立憲民主党と新党「国民党」との候補者調整は難航必至だ。もともと、「政権交代可能な第2の保守政党」を前提とする「国民党」にとって、共産党も含めた統一候補擁立は現職候補の大幅取り下げにつながり、党勢拡大どころか野党内での沈没にもつながりかねない。

森山氏の解散発言に象徴されるように、国会での与野党攻防は連休入り目前で緊迫の度を強めている。与党は25日、審議拒否を続ける野党6党を無視する形で、26日の衆参両院予算委で、首相らも出席しての集中審議実施を決めた。まさに「与野党チキンレース」の様相だ。

その最中に新党旗揚げに奔走する民進、希望両党に対しては、ほかの野党から「結果的に、安倍政権の応援団にもなりかねない」(立憲民主幹部)との批判も渦巻く。こうした八方ふさがりの状況に新党参加組の間からも、半世紀前に大ヒットしたアメリカ映画の題名を引用して「新党を旗揚げしても、『俺たちに明日はない』と言うしかない」(希望若手)と自嘲的なつぶやきが漏れてくる。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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