自分の無知を自覚していない人が残念なワケ 本当は知らないくせに知ったかぶりする危険

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この問題に楽々と答えられそうなサイクリストですら、完璧とはほど遠かった。よく知っているはずのモノ、それも日常的に目にする簡単に理解できそうな仕組みで動くモノに対してすら、理解がこれほど不完全で浅いというのは衝撃的である。

物事は思っている以上に複雑である

身の回りのちっぽけなモノにも実はさまざまな側面があり、その一つひとつが複雑性をもつ。

たとえばヘアピンを完全に理解するには、その現在の用途と潜在的用途をすべて理解する必要がある。さらにヘアピンに含まれるさまざまな素材、その素材の原産地、製造過程でどのように使われるか、ヘアピンがどこで販売され、誰が買うのか、といったことまで理解しなければならない。ここに挙げた疑問の1つひとつにきちんと答えていくと、さらにまた別の疑問がたくさん湧いてくる。

たとえばヘアピンを買うのは誰かを理解するには、ヘアスタイルを分析する必要があり、それにはファッションやその社会的背景まで理解しなければならない。

コンピュータ・サイエンティストはこのように情報ニーズがひたすら膨らんでいく様を「組み合わせによる爆発」と呼ぶ。完全な理解を得ようとすると、次々と理解しなければならないことが増えていく。完全な理解を得るために理解しなければならないものの組み合わせはあっという間に増えていき、抱え込もうとすれば爆発してしまうだろう。

世界の複雑性はおよそ私たちの手に負えるものではないことを示す数学的概念はもう1つある。カオス理論だ。カオスシステムにおいては、プロセスのはじまりのちっぽけな違いが、最終的に途方もない違いを生む。

有名なたとえが、中国での蝶のはばたきがアメリカでハリケーンを起こす可能性がある、というものだ。崖から落下するときの速度が徐々に加速していくのと同じように、カオスシステムではちっぽけな違いが増幅されていく。

科学史家のスティーブン・ジェイ・グールドは、カオスという概念が歴史研究に複雑さをもたらすと指摘する。「ことのはじまりにおける特別な理由もないささやかな出来事が、次々と結果の連鎖を生み、あとから振り返ると特定の未来が必然であったような印象を与える。しかし初期の段階でちょっとした刺激があれば、軌道がずれ、歴史は別の道筋をたどり、当初の道から少しずつ乖離していくだろう。当初の逸脱が一見、とるに足らないものであっても、最終的な結末はまるで違ったものになる」。

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