学校が「実力を育てる場所」に変わるべき理由 新時代の教育は創造性と問題解決力がカギ

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新学習指導要領における「学力」とは、人生を主体的、協働的、創造的に切り開いていく力のことです。こうした「学力」を小・中・高の12年間を通してすべての子どもたちに計画的、組織的に育成できれば、日本の経済・社会も活性化するかもしれません。

AIの進展は教育の「人間化」をもたらす

情報機器の普及やデジタル技術の進歩に伴い、要素的な知識の単なる所有は陳腐化し、その価値は低下しました。産業社会を牽引してきた製造業ですら、もはや基本性能の優秀さだけでは商品として十分ではありません。

他社との差別化を図るべくマーケットの潜在的要求をいち早く察知して具体的な形にし、あるいは斬新な提案によりマーケット・ニーズを創出することが不可欠です。大胆な発想の下、在来の知識を組み合わせ、あるいは活用してイノベーションを起こすことが、すべての職種に期待されているのです。

一方、グローバル化の進展は文化的背景の異なる人々との協働や連帯を日常的なものとし、よりよき妥協点を真摯に模索し続ける姿勢と能力が強く求められています。

知識基盤社会では、もはや唯一絶対の「正解」は存在せず、人々はその状況における最適解をその都度自力で、あるいは多様な他者と協働して生み出すしかありません。

かくして、産業社会を前提に登場し発展してきた学校は、知識の教え込みから幅広い資質・能力の育成へと、その原理を転換することを余儀なくされているのです。

もっとも、これはチャンスです。現在、第4次産業革命と呼ばれる技術革新により、従来人間が担ってきた労働が大幅にAI(人工知能)やロボットによって補助・代替されることが予想されていますが、それでもなお、コンピュータは人間とは異なります。

いくら優秀になったとはいえ、与えられた目的の範囲内で処理を行っていることに変わりはありません。目的を創出し、価値を判断するのは、引き続き人間の仕事なのです。

また、多様な文脈が複雑に入り交じった環境下において、場面や状況を理解して咄嗟(とっさ)の判断を行ったり、多様な他者と協働しながら最適解を模索し続けたりしていくのも、人間が得意とするところでしょう。

逆に言えば、AIの進展により、もはや人間は機械にできることはしなくてよいのです。そして、人間にこそできること、人間ならではの強みを伸ばすことに、教育はそのリソースを集中できますし、集中すべきです。

その意味で、知識基盤社会の到来は、教育の「人間化」時代の到来といっていいでしょう。

奈須 正裕 上智大学教授

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なす まさひろ / Masahiro Nasu

上智大学総合人間科学部教育学科教授。東京大学大学院教育学研究科博士課程教育心理学専攻を単位取得退学、博士(教育学)。神奈川大学助教授、国立教育研究所教育方法研究室長、立教大学教授などを経て、2005年より現職。新学習指導要領の策定にかかわるなど、教育界のキーマンとして知られる。著書に『「資質・能力」と学びのメカニズム』(東洋館出版社)、『答えなき時代を生き抜く子どもの育成』(図書文化社)など。

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