「川崎」ほど今の日本を体現している町はない ヒップホップが希望の光となっている

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貧困、ヤクザ、ドラッグ、人種差別、売春が日常にある環境で、地元の子たちが初めてラップに触れたとき、これは自分たちの文化だ、って思ったと思うんです。ラップの聖地でもある米国シカゴのサウスサイドも同じような貧困地区。ラッパー同士が幼なじみのギャングで、成功してもずっと地元に残って仲間たちでやってる、その辺が自分たちとそっくりだ、と。そいつらは音楽で状況を変え、底辺から抜け出そうとしてる、そういう生き方もあると知った。

川崎に凝縮されている「日常」

――本に登場した若者たちのその後は?

更生して新しい夢を見つけた子もいれば、薬物で逮捕された子もいる。みんな立ち直ってほしいけど、なかなか難しい。そういう不良の子たちがとらわれている負の連鎖、しがらみから抜け出すことができない現状に変わりはない。

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ただ、足を運ぶにつれ感じたのは、川崎は決して特異な街じゃないということ。たとえば日本は公には移民政策を採らないけど、コンビニの店員さんが外国人ばかりなのは厳然たる事実。公然とは語られない問題が川崎に凝縮され、日常化してる。日本の未来を予言する姿かもしれない。

川崎駅付近でもタワマンがドンドン建つ足元で、ドヤ街が取り残され、緩やかに衰退していっている。その中で反差別運動が熱を帯びたり、ラッパーたちが街を変えていこうと呼びかけてる。そういう湧き上がる力ももちろんあって、そこにも未来を感じるんです。

――連日レジからカネを盗んでたら、見張ってた店主に金属バットのフルスイングを食らって顔がパンッパンにはれ上がったとか、親戚が指を詰めるのを手伝ったとか、すごい話を若者たちがひょうひょうと語っている。そんな川崎の底辺にも一筋の希望があると。

彼らが今後どうなっていくかはわからない。これからもつらいことはたくさんあるだろうけど、ライブで輝いてる瞬間だったり、自分には夢があるという若者たちの姿も記録しておきたかった。そうした瞬間や希望が、後からついてくる子たちを導く光になるんじゃないか、なったらいいなと思うんです。

中村 陽子 東洋経済 記者

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なかむら ようこ / Yoko Nakamura

『週刊東洋経済』編集部記者

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