小中学校の「教育方針」が今春から変わる理由 文科省が見据える「新しい時代」の中身とは?

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私たち現代の大人はもちろん、時代を遡ったとしても誰ひとりとして、こんな先行きの見えない変化の激しい時代を生きたことがない。ではどうすればよいのか。いったいどんな能力が新しい時代に必要なのだろうか。

前述の『LIFE SHIFT』の著者リンダ・グラットンは、「マルチステージ化する人生の恩恵を最大化するためには、上手に移行を重ねることが避けて通れない。柔軟性を持ち、新しい知識を獲得し、新しい思考様式を模索し、新しい視点で世界を見て、力の所在の変化に対応し、ときには古い友人を手放して新しい人的ネットワークを築く必要がある」と説いている。

子どもか大人かにかかわらず、これからの時代を生き抜くすべての人に必要なのは「変わり続けられること」なのだろう。ただ、残念ながら「変わり続けられる人材」は大人でさえこの世にそう多くはいないということが、すでに実証されている。

大人の知性には3段階ある

ハーバード大学教育学大学院の教授、ロバート・キーガン博士が提唱した「成人発達理論」がある。ロバート・キーガン博士は、人間の知性の発達は肉体的発達と同様に、20歳代でとまると考えられていたそれまでの通説を覆し、成人以降も心理面で成長し続けることが可能であること、そしてそれが現代社会においては不可欠であると唱えた。

キーガン博士の著書『なぜ人と組織は変われないのか』(2013年、英治出版)では、脳科学の分野においても人間の脳には生涯を通じて適応を続ける能力が備わっていると考えられていることが記されている。さらに、人間の知性はいくつかの段階を経て高まり、その段階ごとに世界を認識する枠組みが変容していくと説いた。

キーガン博士曰く、大人の知性には3段階あるという。第1段階は「環境適応型知性」、第2段階が「自己主導型知性」、第3段階が「自己変容型知性」だ。知性という言葉は多くの人にとって馴染みが薄いかもしれない。そうした場合は「スタンス」と言い換えても、その意図から大きく外れないだろう。

「環境適応型知性」は、周囲からの期待を重視し、自分の意志ではなく集団の合意や集団のリーダーの意志を重んじて行動する段階を指す。重要な人物や組織の意向、居心地の良い環境に自分を合わせることを、自分自身を保つための手段と捉えている。そのため、情報に敏感という特徴がある。ご自身が所属される組織の同僚や先輩後輩を見渡してみたとき、この段階に属していると思われる人も多いのではないだろうか。

次の段階とされる「自己主導型知性」は自分なりの価値基準、判断基準を持ち、自分自身のイデオロギーや行動規範に従い、ゴールや目標を決め、戦略をもって自律的に行動する段階を指す。日本社会のキャリア観が変化し、転職や多様なキャリアの歩み方が徐々に増えている。そんな時代背景の中で一度入った会社を辞め、自分の信念の赴くままに、企業規模や人気などを度外視して転職したり起業したり、あるいは社会貢献分野にいって、自分のキャリアを歩んでいるような方が周りにいたら、もしかしたらその方はこの段階に属しているのかもしれない。

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