米国金利上昇に潜む「格差拡大」という爆弾 パウエル新議長を悩ませるもうひとつの課題

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こうした金利上昇は、米国の場合、個人の生活に大きな影響を与える。特に、低所得者層ほど借り入れに頼る比率が高いため、金利上昇のダメージを大きく受ける。

米国の個人の負債総額は過去最高の13兆ドル(1400兆円)に上る。日本の4.5倍の水準である。住宅ローンは各国とも高い金額だが、米国のクレジットカードによるローン残高は、1人平均1万6000ドルと世界最高レベルであり、大学卒業時には平均3万7000ドルの学生ローンを負っていることが特徴的だ。

一方、個人にとっての減税効果はどうか。残念ながら、今回の米国の減税は高所得者層に手厚い。所得上位 20%の世帯への減税額が、家計全体の減税額の7割を占める。

しかもそうした減税メリットは、金利が上昇したら相殺されてしまう。例えば、会社の事務員など年収4万ドル程度の低中所得者層の場合、減税幅は年間750 ドル程度になるとみられる。ところが、年収の3倍に当たる12万ドルの住宅ローンを変動金利で組んでいた場合、金利が1%上昇すれば、年間の利払い額は1200ドルも増えてしまう。減税効果は金利上昇で簡単に吹っ飛んでしまう計算だ。

インフラ投資も格差是正にはつながらない

トランプ政権が示しているインフラ投資はこうした格差問題の緩和材料になるだろうか。一般に、公共施設は高所得者層よりも低所得者層がより多く活用するため、低所得者支援になりうる。ただ、提案されている1兆5000億ドルの投資額のうち、政府が負担する額は2000億ドルにとどまる。残りは州政府と民間に託すとされている。

ところが、米国の州政府は財政赤字を出すことを法律で禁じられているので、無理な投資はできない。民間企業も採算を度外視するわけにはいかないためだ。はたして低所得者層の生活支援につながるような投資が行われるのかは疑問だ。

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